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日本放射線腫瘍学会第23回学術大会 大会長挨拶を掲載しました。

第23回会長挨拶

2009年10月27日

東京医科歯科大学大学院
腫瘍放射線医学
渋谷 均

 「ヒポクラテスの誓い」は「医神アポロン、アスクレピオスおよび全ての神々の前に、この誓約と義務をわが力と誠をもって履行することを誓う」で始まる多くの医療者が知悉している言葉です。しかし、いまも人口に膾炙されている「人生は短く、技術(芸術)は長い、機会は逃げやすく、実験は危険を孕み、判断は難しい」(Life is short, art long, opportunity fleetng, experience misleading, judgement difficult)という言葉もこの同じ医学の先達から出たことを知っている人は多くありません。古代エジプトのアレクサンドリア図書館で刊行された最古の医学教科書:「ヒポクラテス全集」の中の金言集「Aphorism」にあるこの一節はローマの高名な哲学者の引用から始まって「ヒポクラテスの誓い」を超えて広く世界中に知られてきているのですが、 、 、

 古代ギリシャ語でArs (Artのラテン語)は日本語の医術にあたり、「人生は、、、」の真意は医術を習得するにはあまりにも人の一生は短く、老いてなお研鑽を怠るなという含蓄に富む言葉なのでしょうか。魔術や迷信に頼ることが多かった当時の医療に警告する意味で発された言葉なのでしょうが、このフレーズは歴史を経た今でも新鮮さを失わず、勇気をもってして行われる新しい実験にも誤解と思い込みによる大きな危険が孕み、必ずしも患者の利益と直結しないことも多々あるとの警鐘を鳴らしています。

 Arsはその後、歴史の変遷を経て広く解釈されるようになり、19世紀に始まるルネッサンスには芸術=Artとして人間性を解放/開花させ、中世の精神運動を打破して参りました。1895年を嚆矢とする放射線医学も古代ギリシャのArsの理念を胎蔵しつつ、真理の検証を基とするScienceとして長足の進歩を遂げてきたことは衆目の一致するところです。放射線治療学は今や長足の進歩を遂げ、いまでは世界の多くの病める人々の幸せに齎してきています。今回、第23回放射線腫瘍学会を開催するにあたり、この会が放射線腫瘍学の更なる発展の一助になればと願っております。

 薬草を口に噛み、常に実証を怠らなかった神農を祀る湯島聖堂の傍らで西欧文化まっただ中にある東京ディズニーでの学会を皆と企画する今日この頃です。放射線腫瘍学に心を寄せ、将来を展望する皆様に相見え、議論できる日を一日千秋の気持ちでお待ちしております。