日本放射線腫瘍学会第19回会長ご挨拶を掲載しました。
日本放射線腫瘍学会第19回会長ご挨拶
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2005年12月21日
日本放射線腫瘍学会第19回会長
東北大学放射線腫瘍学分野 山田 章吾
日本放射線腫瘍学会(JASTRO)第19回会長を務めさせていただくことになりました。
さて、最近の放射線治療の進歩は著しく、ミリ単位の精度でがんに高線量を投与することが可能な定位放射線治療方法は3 cm以下の癌であれば手術に匹敵する治療成績が得られ、また、照射野内の放射線強度を部分的に変化させるIMRT(強度変調放射線治療)法は、従来不可能であった凹型の照射野を含め、自在に三次元照射野を形成することが可能で、障害軽減と同時に線量増加により、頭頸部癌や前立腺癌で飛躍的な治療成績向上が得られております。最近では、手術可能な癌であっても機能温存の点から、まず放射線治療を試み、効果不良あるいは再発の時点で手術するといった症例が増えてきており、手術不能末期癌をもっぱら対象としていた旧来の放射線治療とは全く様相を異にしてきております。さらに、高度高齢化社会の急速な進行に伴い、癌の罹患率および手術不能例が増加しており、放射線治療件数はここ数年急激に増加してきております。しかし、こうした急速な放射線治療の進歩にもかかわらず放射線治療における医療事故が多発しているのが現状です。
JASTROの目的は放射線腫瘍学に関する研究の推進、会員のレベルアップと社会への貢献であろうかと思います。研究の推進及び会員のレベルアップを目的として、平成18年8月5-6日に放射線腫瘍学夏季セミナーおよび医学生・研修医のための放射線治療セミナーを予定しており、また平成18年11月23-25日に仙台で第19回日本放射線腫瘍学会学術大会を予定しております。会員のレベルアップは社会からの強い要請であり、その重要な柱である専門医・認定医制度の充実が求められております。日本医学放射線学会がすでに診断専門医と治療専門医とを分ける方向で検討を進めており、また癌関連学会が癌認定医制度の検討を進めております。JASTROは責任を持ってこの制度改革に取り組んでいく必要があります。また、放射線治療は医師、品質管理士、診療放射線技師、および看護師さんなどとのチームワークを特に必要とします。こうしたコ・メディカルのレベルアップを図るのもJASTROの重要な仕事と考えております。また、社会への責任を明確にするためにJASTROの法人化および医学会加入を推進したいと考えております。
多発している放射線治療における医療事故に対してJASTROは迅速にまた真摯に取り組んで参りましたし、今後も取り組んでいく所存です。しかし、急激に増加している治療件数と一向に増加しない放射線治療医数との乖離は日に日に増大しており、品質を保つためには、例えば放射線治療ベッド数を減らすなど診療制限をせざるを得ない状況に近づいて来ております。放射線治療医の育成には時間がかかりますので、目の前の危機を乗り切るためにも、医師と一緒に治療計画に参加し、品質管理を行う放射線品質管理士の社会的育成をめざしてJASTROは努力する必要があると考えております。また、放射線治療医増加のために、厚労省は平成16年度から始まっている第3次対がん10か年総合戦略「がん治療の均てん化」のなかに「大学において、がん診療全般を横断的に見ることのできる化学療法及び放射線療法などを専門とする講座の設置等、教育体制の整備に努める必要がある。」と入れていただきました。実現のためにJASTROは最大限の協力をする必要があります。
ところで、私の最大の任務はJASTRO第19回学術大会を開催することです。学術大会のテーマは「放射線治療の標準化と社会への貢献」といたしました。急速に進歩している放射線治療ですが、放射線治療技術は各施設一斉に向上しているわけではなく、また放射線治療方法も施設によって差があるようです。一度治療技術や治療方法の整理をし、どの施設においても標準的な治療が行える、いわゆる均てん化の必要があるのではないかと考えました。標準化のためには過去の文献およびデータの整理に基づいたエビデンスの集積が必要です。教育講演と一般講演をドッキングしたセッションをなるたけ多く作り、標準化のための議論をしていただきたいと考えております。また、社会への貢献として激増している放射線治療のニーズにどう答えていくのか、専門医制度にどう対応していくのか、核テロや原子力事故にどう対応するのか、などについて議論していただきたいと考えております。皆様のご来仙を心からお待ち申し上げております。