No. 231
Z0011:センチネル陽性浸潤性乳癌に対する腋窩郭清有無の第3相ランダム化比較試験
Effect of Axillary Dissection vs No Axillary Dissection on 10-year Overall Survival Among Women With Invasive Breast Cancer and Sentinel Node Metastasis.The ACOSOG Z0011 (Alliance) Randomized Clinical Trial.
Giuliano AE. et al
JAMA 2017 Sep 12;318(10):918-926.
doi: 10.1001/jama.2017.11470.
背景・目的
腋窩郭清省略の全生存への影響を評価したACOSOG Z0011試験の10年経過時点での追加報告。センチネルリンパ節生検陽性例において、標準治療とされる腋窩郭清に対して腋窩郭清省略の全生存における非劣勢を評価する。
対象・方法
第3相ランダム化比較試験。1999年5月から2004年12月に115施設で集積。対象はcT1-2の浸潤性乳癌、腋窩リンパ節腫大なし、乳房温存術、センチネルリンパ節生検で1-2個のリンパ節転移陽性、術前化学療法は施行されていない症例。主要評価項目は全生存、副次評価項目は無病生存。層別化因子として年齢、ホルモンレセプター、腫瘍径、センチネル陽性個数とした。治療はlumpectomyと全乳房照射、術後全身療法とし接線照射以外のfieldは禁止した。
腋窩郭清群で5年生存率75%以上、α=0.05 (片側検定)、検出力90%として必要イベント数500と算出し、HRの非劣性マージンは <1.3と設定した。4年で1900例の集積を目指したが集積不良とイベント数不足から最低10年の経過観察とすることとした。解析はITT法で行った。
結果
1999年5月から2004年12月に891人(腋窩郭清省略群446人、腋窩郭清群445人)が割り付けられた。微小転移は腋窩郭清省略群で164人(44.8%)、腋窩郭清群で137人(37.5%)。何らかの後治療は腋窩郭清省略群423人(97.0%)、腋窩郭清群403人(96.0%)で行われていた。うち放射線治療は腋窩郭清省略群277人(89.6%)、腋窩郭清群263人(88.9%)で行われていた。
観察期間中央値9.3年、10年全生存率は腋窩郭清省略群で86.3%、腋窩郭清群で83.6%、HR 0.85 (1-sided 95% CI, 0-1.16)で非劣性マージンを満たした。10年無病生存率は腋窩郭清省略群で80.2%、腋窩郭清群で78,2%、HR 0.85 (95% CI, 0.62-1.17)だった。5年から10年までの期間でリンパ節再発は腋窩郭清省略群で1例見られただけだった。
結論
術前に腋窩リンパ節腫大のないT1-2のセンチネル1-2個転移陽性乳癌において、腋窩郭清省略は腋窩郭清追加と比べて10年生存率において非劣性である。この患者群においてルーティンに腋窩リンパ節郭清を行うべきではないことが示された。
コメント
この試験は2011年に観察期間中央値6.3年時点でセンチネルリンパ節転移陽性乳癌において、腋窩郭清省略群が腋窩郭清群に対して全生存率に置ける非劣勢を示し、腋窩郭清省略の可能性を示していた。しかし、症例集積不足とイベント数不足、さらにホルモン陽性乳癌の晩期再発への懸念のため、経過観察期間を延長した今回の観察期間10年の報告においても非劣勢が証明され、本試験に適格となるような患者群で腋窩郭清省略できる可能性を示した。
腋窩郭清の有用性について、NSABP B-04試験において臨床的腋窩リンパ節転移陰性の症例に対しては腋窩郭清の有無で生存率に有意差を認めないことが示されている。また、AMAROS試験においてはセンチネルリンパ節転移陽性の症例において、腋窩照射と腋窩郭清の成績が比較され、両群とも腋窩再発は少なかった。Z0011試験の結果も踏まえ、乳房温存術後に適切な術後治療が行われることで腋窩郭清が予後に与える影響は小さいと考えられる。
しかし、腋窩を含め領域リンパ節照射の必要性という観点からは未だに議論の余地がある。Z0011試験では禁止されていた領域照射している症例も、記録がある約230症例のうち20%ほど、腋窩照射では50%ほどで含まれており (JCO 2014) 、その影響も考慮する必要があるが照射範囲による生存への影響は検討されていない。一方で、2011年の初回報告からの間にMA20とEORTC22922/10925の両試験の結果が報告され、本試験とオーバーラップする患者群で、領域照射により無再発生存率の向上が示唆されている。
腋窩郭清省略の流れは確かなものであるが、Radiation oncologistにとってはそのような状況でルーティンに領域リンパ節の照射を追加する必要があるかどうかに関してはさらなる検討が望まれる。
Evidence level Ib
PMID: 28898379
(がん・感染症センター都立駒込病院 小川 弘朗)