No.261
低線量X線誘発光線力学療法のための半導体放射線増感剤の組成調整
Composition tunability of semiconductor radiosensitizers for low-dose X-ray induced photodynamic therapy.
Chen L, Zhang J, Xu L, Zhu L, Jing J, Feng Y, Wang Z, Liu P, Sun W, Liu X, Li Y, Chen H.
J Nanobiotechnology. 2022 Jun 21;20(1):293. doi: 10.1186/s12951-022-01494-7.
背景
放射線治療は、がん治療において最も一般的に用いられている方法の一つであり、放射線増感剤は、重元素を細胞に取り込むことで治療効果を高めることができると考えられている。しかし、これらの高Z元素ナノ粒子薬剤の二次励起は、依然として低効率という本質的な欠陥を含んでいる。そこで、アナターゼ型酸化チタンのTi4+の一部を価電調整可能なBi3+またはBi4+で置換し、X線吸収と酸素欠損を増加させたBiドープ酸化チタンナノ粒子薬剤(半導体放射線増感剤)を設計し、その特性を調べた。
方法
Bi(NO3)3-5H2O をエチレングリコールで溶解させ、テトラブチルチタネートを添加し、窒素バブリングで酸素と水を除去した。その後、アセトンと反応させ、遠心分離によって得られた白色沈殿をエタノールとアセトンで洗浄し、真空下で乾燥させ、Biドープ酸化チタンナノ粒子薬剤を調整した。Biドープ酸化チタンナノ粒子薬剤はカルボキシル基を有するように表面加工され、RGD(トリペプチドアルギニン-グリシン-アスパラギン酸)で修飾されている。
本実験では、悪性神経膠腫U87MG細胞を用いて、MTTアッセイによる細胞毒性試験、フローサイトメーターによるアポトーシス細胞の計測、ミトコンドリアの膜電測定、細胞内過酸化脂質の測定、コメットアッセイによるDNA損傷測定、コロニー形成法による放射線感受性の測定が行われた。さらにX線照射による溶液中のヒドロキシルラジカル(OH)の生成や細胞内ヒドロキシルラジカルの生成も測定された。
結果
半導体放射線増感剤はエンドサイトーシスによって、U87MG細胞の細胞質への取込が確認され、X線との併用により細胞生存率が低下し、アポトーシス誘導能が増加した。この増感効果は細胞内のOHラジカル量増加、ミトコンドリア膜電位の急激な低下によって説明され、DNA損傷量の増加も含め、放射線増感効果が実証された。U87MG皮下移植腫瘍モデルマウスでは、半導体放射線増感剤の腫瘍組織への取り込みが認められ、X線との併用で腫瘍成長を著しく抑制し、担癌マウスの生存期間を延長させることができた。マウスの主な臓器や組織に病理学的な変化は見られなかった。
結論
低線量X線誘発光線力学療法のための半導体放射線増感剤の調合が可能になり、アナターゼ型TiO2の格子に高Z元素Biを投与するとX線吸収が増加し、活性酸素の発生が促進される。低線量(4Gy)照射では、わずか1%の投与で劇的に活性酸素を発生させることができた。さらに重要なことは、低線量X線照射下において、この半導体増感剤ががん細胞内で効果的に活性酸素を生成し、ミトコンドリア損傷、膜脂質過酸化、核破壊を引き起こしたことである。この相乗的な治療と放射線増感により、近くの健康な細胞に害を与えることなく、がん細胞を大きく破壊することができた。本研究は、癌治療のための半導体放射線増感剤の設計と調整のための有望な戦略を提案した。
コメント
- 高Z元素(シスプラチンなど)とX線の併用効果は古くから知られていたが、ここ数年、ナノ薬剤開発技術が向上し、細胞への取込能が改善し、薬剤併用療法が再認識されている。
- 重粒子線との高Z元素薬剤併用の研究報告も増えており、重粒子線誘発フリーラジカルの重要性も報告されてきている。
平山亮一・量研機構(生物部会・学術WG)