No.74
Stage I seminoma の術後照射はカルボプラチンの単回投与に置換されるか?
Radiotherapy versus single-dose carboplatin in adjuvant treatment of stage I seminoma: a randomized trial
Oliver RTD, et al.
Lancet 366:293-300, 2005
対象と方法
1996-2001年にかけて、14ヵ国、70施設からエントリーされた1477人の患者が、除睾術後に放射線治療(n=904)とカルボプラチン(7×AUC)一回静注法(n=573)に無作為に振り分けられた。プライマリーエンドポントは無再発生存率である。
結果
結局885人が放射線治療を受け(477人が30Gy、322人が20Gy、その他86人)、560 人がカルボプラチン投与を受けた。中間観察期間は4年で、無再発生存期間は放治群vsカルボプラチン群で、それぞれ2年で96.7%(95% CI 95.3-97.7%)vs 97・7%(95% CI 96.0-98.6%)、 3年で95.9%(95% CI 94.4-97.1%)vs 94.8%(95% CI 92.5-96.4%)であり、hazard ratioは1.28(90% CI 0.85-1.93)で、いずれも有意差無しであった。カルボプラチン群の方が骨髄抑制は強度であった(grade 3,4が4%)が、全身倦怠感は軽度であり就労休止期間も短い傾向がみられた(20Gy群と比較しても)。二次的な対側睾丸胚細胞腫瘍が、放治群で10 人、カルボプラチン群で2人発生し、5年睾丸胚細胞腫瘍発生率は放治群で1.96%(95% CI 1.0-3・8%)vs 0・54%(95% CI 0・1-2・1%), p=0.04であった。原病死が放治群で1名発生したがカルボプラチン群ではいなかった。
結語
この試験結果は、カルボプラチン静注法の放射線治療に対する非劣勢を証明している。原病死や二次的睾丸胚細胞腫瘍発生率がカルボプラチン群で少ないことが示唆されたが、結論づけるにはあと四年以上の経過観察が必要である。
解説
Stage I seminomaの術後補助療法として、放射線治療とカルボプラチンの1回静注法を比較した大規模第三相比較試験の論文です。研究母胎は、有名な英国の Medical Research Council(MRC)で、EORTC30892とcollaborateしています。MRCはこれまでにStage I seminomaの術後補助療法として、照射線量を30Gyと20Gyで比較したり、照射野について傍大動脈だけといわゆるdog-leg(そけい部+患側腸骨動脈リンパ節+傍大動脈)を比較して、観察期間は短いもののいずれも予後に有意差なし、という中間報告を出しています。本論文で無作為比較試験の割に放射線治療群が多いのは、放射線治療群の一部が30Gy照射群と20Gy照射群にサブグループ化され、放治群とカルボプラチン群を5:3になるように振り分けているからです。
本論文の結論として、従来術後補助療法として半世紀の間標準的に行われてきた放射線治療と、カルボプラチン(7AUC)単回治療は同等の効果を持ち就労生活への支障はカルボプラチンの方が少ない、よって放治に替わりうるとしています。注目すべきは、対側睾丸の新たな胚細胞腫瘍発生率が放治群よりもカルボプラチン群の方が低いという結果で、カルボプラチンによる予防効果の有効性が強調されています。
コメント
我々腫瘍放射線科医としては縄張りを奪われるような思いもありますが、患者にとって有利な治療法を推奨する上で知っておくべき論文と思われます。標準治療として放射線治療とカルボプラチン単独とどちらを取るか今後も経過観察が必要でしょうが、少なくとも放射線治療施設が不十分な国や地域、すでに放射線治療既往のある症例、放射線治療に拒否的な症例(仕事に影響を受けたない)などでは、十分信頼できる治療法として提示してもよいかもしれません。ただ、小生の感覚ではseminomaの術後照射中就労できなくなる程具合の悪くなる症例はほとんどいませんし、7AUCのカルボプラチンはかなりきつい、と思われるのですがいかがでしょうか。
(大西 洋)