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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.157
脳転移に対する定位手術的照射単独療法(SRS)と定位手術的照射と全脳照射の併用療法(SRS+WBRT)の治療後の認知機能に関するランダム化比較試験

Neurocognition in patients with brain metastases treated with radiosurgery or radiosurgery plus whole-brain irradiation: a randomized controlled trial

Chang EL, Wefel JS, Hess KR, et al.
Lancet Oncology 10(11):1037-1044, 2009

目的

脳転移に対し、定位手術的照射(SRS)と全脳照射(WBRT)を併用することによりSRS単独治療よりも記憶学習能力が低下するかどうかを評価した。

左項目 右項目

方法

2001年1月から2007年9月に米国のM D Anderson Cancer Center単施設において、1~3個の新規脳転移症例がSRS単独群あるいはSRS+WBRT群に無作為割付した。SRSの線量は15-24 Gy、全脳照射の線量は30 Gy/12回とした。90例の登録を予定した。
対象はrecursive partitioning analysis (RPA)が class 1、2の症例に限られた。割付調整因子はRPA、脳転移の個数、原発の組織型(腎癌あるいはメラノーマか、その他か)とした。
プ ライマリーエンドポイントは4ヵ月時点でのHopkins Verbal Learning Test-Revised (HVLT-R)のtotal recall(注)が有意に低下した割合(ベースラインから5点以上の低下を有意とした)とされた。Intention to treat (ITT)解析を用いた。
(注)12個の単語のうち何個を覚えられたかをテストする。3回テストを実施し覚えられた単語の合計数が点数となる。

結果

58例登録(SRS単独群30例、SRS+WBRT群28例)時点で、4ヵ月時点のtotal recall低下割合(推定値)がSRS+WBRT群(11例)にて52%、SRS単独群(20例)では24%であり、早期中止基準が適用された。
4ヵ月時点での死亡数はSRS単独群で4例(13%)、SRS+WBRT群で8例(29%)であった。1年時点での中枢神経無再発割合はSRS単独群で27%、SRS+WBRT群で73%であった(p=0.0003)。

結論

SRSにWBRTを併用することにより、SRS単独療法と比較して4ヵ月以内に記憶学習能力が低下した。新規脳転移症例に対する初期治療は記憶学習能力を保つ観点からSRSとクローズフォローアップを推奨する。

コメント

Mini-mental status examination(MMSE)を用いた過去の報告では全脳照射後の認知機能低下は主に治療後2年以降に出現するとされていたが、本研究ではHVLT-R total recallという評価項目を用いることにより、全脳照射後4ヵ月という早い時点で海馬機能が低下することが示されている。物理技術的には既に複数の施設 からIMRTにて海馬の線量を低減しつつ全脳照射を行うことが可能であることが報告されており、その臨床成績に注目したい。また、肺小細胞癌の予防的全脳 照射に関してもHVLT-R total recallを用いて治療後の記憶学習能力を評価する必要性を強く感じる。
なお、この試験では SRS+WBRT群の生存率がSRS単独群より有意に低かったが、この要因としては、SRS単独群で局所再発時に救済手術を施行した割合が高かったこと、 脳転移治療後の全身化学療法の開始がSRS単独群のほうが平均で1ヵ月以上早かったこと、SRS+WBRT群に有肝転移症例が多く割付けられたことが考え られている。


(中村 直樹)

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