No.209
早期乳癌における所属リンパ節照射
Regional Nodal Irradiation in Early-Stage Breast Cancer
Whelan TJ, Olivotto IA, Parulekar WR, et, al.
N ENGL J MED, 2015, July 23, 373;4, 307-316
背景
乳房温存手術を施行された女性乳癌患者の多くが全乳房照射を受けている。
全乳房照射に加えて所属リンパ節照射を施行することが、治療成績を向上させるか否かを検討した。
方法
乳房温存手術と術後全身療法を受けた所属リンパ節陽性あるいは所属リンパ節陰性高リスクの女性乳癌患者を、全乳房照射と所属リンパ節照射(内胸、鎖骨上窩、腋窩の各リンパ節を含む)を実施する群(リンパ節照射群)と全乳房照射のみを実施する群(コントロール群)に無作為に割り付けた。
一時効果は全生存率、二次効果は無病生存率、無局所・所属リンパ節再発率、無遠隔転移率とした。
結果
2000年3月から2007年2月までの間に総計1832例の女性乳癌患者がリンパ節照射群あるいはコントロール群に割り付けられ、各群各々916例であった。経過観察期間中央値は9.5年であった。
10年経過観察時における生存率は、リンパ節照射群で82.8%、コントロール群で81.8%で、両群間に明らかな有意差は認められなかった(ハザード比:0.91、95%信頼区間:0.72 - 1.13、p値:0.38)。
無病生存率は、リンパ節照射群で82.0%、コントロール群で77.0%であった(ハザード比:0.76、95%信頼区間:0.61 - 0.94、p値:0.01)。
リンパ節照射群の患者においてはグレード2以上の急性肺臓炎(リンパ節照射群:1.2% 対 コントロール群:0.2%、p値:0.01)とリンパ浮腫(リンパ節照射群:8.4% 対 コントロール群:4.5%、p値:0.001)の発生頻度が高かった。
結論
所属リンパ節陽性あるいは所属リンパ節陰性高リスクの女性乳癌患者に対して全乳房照射に加えて所属リンパ節照射を実施しても全生存率の向上は認められなかったが、乳癌の再発率は低下した。
コメント
乳癌の乳房温存手術後では、腋窩郭清後のリンパ節転移個数が0個, 1-3個,4個以上の場合、鎖骨上領域へのリンパ節転移がそれぞれ0-0.9%, 1未満-2.1%,5.5-11%に認められるとされている。これらの事実も踏まえて、NCCNのガイドラインにおいては腋窩リンパ節転移4個以上の症例には鎖骨上下領域への照射も勧めており、世界的にもコンセンサスが得られている。
しかしながら乳房温存手術後で腋窩リンパ節転移1-3個の症例に対する鎖骨上下領域を含む所属リンパ節への照射の有用性は未だ明確ではない。本論文で用いられたトライアルの経過観察期間中央値約5年の時点での検討では、5年無病生存率に有意な改善が認められ、全生存率にも改善傾向が認められていた。
この結果を含めた複数のトライアルの結果から、現時点においては、腋窩リンパ節転移1-3個の症例に対する鎖骨上下領域への照射も考慮されている。
しかし、今後は全身療法の進歩等に伴い局所・所属リンパ節再発も減少するものと考えられ、鎖骨上下領域への照射の必要性はさらに慎重な評価と検討が必要と思われる。
その意味において本論文の結果は、乳房温存手術後で腋窩リンパ節転移1-3個の症例に対する今後の放射線治療の指針決定に大きな影響を与えるものと思われる。
Evidence Level: 2 (Oxford 2011)
PMID: 26200977
(高知医療センター・西岡明人)