No.43
剖検症例における食道癌早期病変の頻度
Low prevalence of incidentally discovered and early-stage esophageal cancers in a 30-year autopsy study
Lam K-Y, Law S, Wong J
Diseases of the Esophagus 16:1-3, 2003
剖検症例の検討は、その疾患に対する治療法や患者管理における重要な情報を提供することが期待されている。本論文では、University of Hong Kong Medical Center(Queen Mary病院)で、剖検時に偶然発見された食道癌の頻度、組織型、進行度等について分析している。
剖検は30年間で10,309例に行われ、食道癌は346(男性306、女性40)例(全剖検例の3.4%)であった。このうち剖検にて偶然発見された食道癌は30例(8.7%)で、これは全剖検例の0.29%であった。分析の結果、食道癌346例の組織型は扁平上皮癌336例(97.1%)、小細胞癌9例(2.7%)、腺癌1例(0.3%);T因子ではT1 11例(3%)、T2 11例(3%)、T3 163例(47%)、T4 161例(47%);病期はI期7例(2%)、II期49例(14%)、III期121例(35%)、IV期169例(49%)であった。前癌病変や粘膜上皮にとどまる早期病変は発見されなかった。一方、剖検にて食道癌と診断された30例では、すでに食道癌と診断されていた症例よりも年齢(68歳:63歳)が高く、小細胞癌(17%:1%)の割合が多く、T1・T2症例(20%:5%)の割合が高いという特徴が認められた。しかし、剖検にて食道癌が発見される頻度は上述のごとく0.29%ときわめて低く、さらにI-II期の比較的早期症例の頻度も17%(5/30)と高くはなく、死亡時に食道癌と診断されていた症例における頻度(16%=51/316)と差異はなかった。
食道癌は世界で悪性腫瘍による死亡の第6位(日本では第8位)にある。この高い死亡数は、一つには発見時すでに進行癌であることに関係している。しかも増殖・進行が速いため、検診等でも早期に発見できる可能性は低い。さらに発癌に関する初期段階にターゲットを当てる分子生物学的研究をはじめ臨床的研究も困難を極めている。内視鏡検査で偶然に発見される以外に、食道癌を初期のうちに発見しうる手法を確立せねばならない。
(岡崎 篤)