No.47
放射線治療の開始の遅れは治療成績に影響を及ぼすか?
Does delays in starting treatment affect the outcomes of radiotherapy? A systematic review.
Huang J, et al.
J Clin Oncol 21:555-563, 2003
目的
放射線治療(RT)の開始の遅れとRTの治療結果の関係について、現時点で得られるエビデンスを統合することである。
方法
放射線治療の開始の遅れと局所制御率、遠隔転移率、そして/あるいは生存率との関係を検討した研究を収集するために、世界中の文献を体系的にレビューした。研究は臨床的あるいは方法論的に分類し、変量効果モデルを用いてそれらの結果を統合した。
結果
15,782人の患者を含む46件の研究が方法論の妥当性に関する我々の必須基準に合致した。大部分が後ろ向きの観察的研究であった。39件の研究で局所再発率が、21件の研究で遠隔転移率が、19件の研究で生存率が記載されていた。RTの開始の遅れと治療結果の関係はさまざまな臨床状況で検討されていたが、疾患として最も多かったのは乳癌(21件の研究)と頭頸部癌(12件の研究)であった。統合した分析結果によると、5年局所再発率はRTの開始時期で以下のような差があった。術後8週以降に補助RTを開始した乳癌患者では8週以内に照射を開始した患者と比較して有意に高かった(オッズ比1.62、95%信頼区間 1.21-2.16)。また、術後6週以降に術後照射を開始した頭頸部癌患者では6週以内に照射を開始した患者と比較して有意に高かった(オッズ比2.89、95%信頼区間 1.60-5.21)。遠隔転移率と長期生存率に対するRTの開始の遅れの影響はどの疾患どの状況でも明かでなかった。
結論
RT開始の遅れは乳癌と頭頸部癌の5年局所再発率の増加(訳者注:論文では減少と書かれていたが誤り)につながる。RTの遅れは無理なく達成できる範囲で最短にすべきである。
1)放射線治療の開始の遅れが治療成績に影響を及ぼすかどうかのRCTは倫理的に実現しないであろうから、このテーマに関してのエビデンスは観察的研究のシステマティック・レビュー(メタアナリシス)に頼らざるを得ないであろう。
2)変量効果モデル(random-effects model)とは研究間には無視できない違い(heterogeneity)としての「各研究の偏り」があり、これらを一つの確率変数として誤差の部分を二つに分離したモデルで、研究間のバラツキはもっぱら偶然誤差であると仮定する母数モデル(fixed-effects model)と比較して、より自然なモデルである。
4)この研究が発表された背景には次のような事情ある。カナダ、オーストラリア、英国におけるいくつかの公的基金保健システムでは増え続ける適応に放射線治療の供給が追いつかず、放射線治療を受ける患者待機リストが存在する。競合する多くの医療分野の要求にも直面している保健システムのマネージャに対して「放射線治療の遅れが局所制御率の観点からも患者の不利益になる」ことを声高に発表する必要がある。
(兼平 千裕)