No.53
小児脳腫瘍の生存者において,長期に渡る神経学的および感覚神経における障害について:小児癌生存者の研究
Long-term neurologic and neurosensory sequelae in adult survivors of a childhood brain tumor: childhood cancer survivor study
Packer RJ, et al.
J Clin Oncol 21:3255-3261, 2003
目的
脳腫瘍の患児での神経(運動)および感覚神経の欠損症状について、同胞をコントロールとして比較し、これらの欠損症状が発生することと関連する因子を抽出することを目的とした。
方法と対象
1970年から1986年の間に、原発性中枢神経腫瘍の患者1607人に対して、詳細な質問表に回答してもらった。感覚神経と(運動)神経学的障害を評価し、結果を同胞での結果と比較した。全症例のカルテから放射線照射線量と照射容積等を抽出した。
結果
17%の患児で感覚神経障害を来していた。コントロールの同胞と比較して、脳腫瘍の生存者において聴力障害のリスクが高く (相対危険度[RR]=17.3;p=<0.0001)、片眼または両眼の視力障害 (RR=14.8, p=<0.0001)、白内障 (RR=11.9;p=<0.0001)、複視 (RR=8.8; p=<0.0001)。後頭蓋窩への50Gy以上の照射により聴力障害の発生率の上昇と高い関係を示した。協調行動と運動制御の障害はそれぞれ生存者の49%と26%に認められた。前頭部に少なくとも50Gy以上照射された患児では運動障害のリスクが中等度高くなった (RR,2.0; <0.05)。痙攣の発症は25%で報告され、6.5%では遅発性に痙攣を初発した。脳皮質部の一部に30Gy以上照射された患児では、晩発性の痙攣発症のリスクが2倍高まった。後頭蓋窩を照射した場合、CDDPの併用により神経障害の増強が予想されたが、結果は聴力障害、耳鳴り、めまいに関して危険率は増強しなかった。
結論
脳腫瘍で生残した患児では、早期および晩期の神経学的および感覚神経後遺症に対するかなりのリスクがあった。これらの後遺症を前向き研究で調査する必要があろう。
1980年台の半ばから、化学療法の導入により小児脳腫瘍、特に髄芽腫の治療成績が向上した。従って、長期予後が重要となり、障害発症の有無が問題となる。線量は上げたいが、障害を引き起こすと患児の生涯にわたる重大事となる。放射線治療医は小児腫瘍患者を長期に渡って経過観察する機会があまりないので、患児の行く末を考えながら治療にあたりたいものである。
(関根 広)