No.63
非小細胞肺癌に対する導入化学療法後の再増殖の加速
Accelerated regrowth of non-small-cell lung tumours after induction chemotherapy
Sharouni E SY, et al.
Br J Cancer 89:2184-2189, 2003
III期非小細胞肺癌に対する治療法の1つとして、gemcitabineとcisplatinを用いた導入化学療法でdownstagingを試みた後に放射線治療を行う方法がある。
この研究の目的は放射線治療までの待機時間、すなわち導入化学療法と放射線治療との間隔が非小細胞肺癌の腫瘍増大率に及ぼす影響を調べることである。導入化学療法の最終日、診断目的のCT施行日、治療計画用のCT施行日、そして放射線治療の初日それぞれの間隔を23例の非小細胞肺癌(1999-2000年の治療例で、化学療法の奏功率は78%)で調べた。18例では、原発腫瘍と転移リンパ節の大きさを導入化学療法後の評価目的のCTと放射線治療計画目的のCTで計測することにより肉眼的総腫瘍体積の増加を測定した。腫瘍倍加時間は2つのCTの時間間隔と両CTにおける腫瘍体積比から算出した。化学療法の最終日から評価目的のCT施行日までの間隔の平均は16日で、また放射線治療の初日までの平均は80.3日(29-141日)であった。23例のうち、治癒の可能性があった患者(IIIA期)の41%は放射線治療の待機中に治癒不可能(IIIB期)となった。両CTの腫瘍体積の比は1.1から81.8で、腫瘍倍加時間は8.3から171日、平均46日、中央値29日であった。この値は報告されている未治E肺癌の平均倍加時間(93-452日)に比べてかなり短い。
この結果は化学療法の最終日と放射線治療の初日までの間に生き残った腫瘍細胞の再増殖の加速によって腫瘍の急速な増大が起こったことを示している。結果として、導入化学療法で得られた腫瘍減量という御利益は放射線治療の待機中に失われたことになる。以上から化学療法と放射線治療の間隔は可能な限り短く(できれば2-3週以内に)すべきである。
「導入化学療法で腫瘍細胞数が1/100(1%)になった時点で放射線治療を行っても、化学療法により腫瘍の再増殖が加速され、分割照射の間に細胞数が増加することによって放射線治療終了時点の腫瘍細胞数は放射線治療単独(当初よりの腫瘍再増殖の加速がないため分割照射間の細胞数の増加が少ない)と変わらなくなるかもしれない」というTannockの主張を思い出すと、化学療法と放射線治療の間隔が平均80.3日というのはずいぶん悠長な気もするが、化学療法によって腫瘍細胞(非小細胞肺癌)の増殖が加速することを数値で示した点で意義のある論文である。導入化学療法後の放射線治療には治療期間を短縮した加速照射が必要かもしれない。
(兼平 千裕)