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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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No.67
髄芽腫症例に対する全中枢神経照射における卵巣線量低減の方法

A method for reducing ovarian doses in whole neuro-axis irradiation for medullob lastoma

Harden SV, et al
Radiother Oncol 69:183-186, 2003

背景と目的

髄芽腫症例に対する全脳・全脊髄照射は女性の妊孕性を障害する。文献によると卵巣線量4Gyで若い女性の30%に永久不妊が発生するので、全治療において卵巣線量は1.5Gy未満にすることが望まれる。われわれは卵巣線量低減のために、照射野下縁に広がらないビーム(non-divergent beam)を用いた変更(modified)放射線照射法を報告する。

対象と方法

8人の髄芽腫女性患者において、治療体位でMRIを撮像し照射野と卵巣の位置関係を比較検討した。MRIの情報を治療計画システムに転送し、通常の(conventional)脊髄照射法と照射野下縁にhalf beam blockを用いた変更(modified)照射法の両方の治療計画を行った。

結果

MRIによる卵巣位置の同定により両治療法における卵巣線量が予測可能となった。照射野下縁に広がらないビーム(non-divergent beam)を用いた放射線照射法では、前例で卵巣線量が低減可能で、中央値2.45Gy (1.6-19.5Gy)で、低減率は中央値66.8% (2.6-84.6%)であった。照射野縁と卵巣位置はどの症例でも線量低減を行う際にきわどい(critical)関係にあった。変更(modified)照射法では片方の卵巣の線量が4Gy未満となる患者数が3人から6人に倍化した。通常(conventional)照射法では全例で卵巣線量が1.5Gy以上であったのに対し、この変更照射法では3人が一方の卵巣線量が1.5Gy未満であった。

結論

われわれは、卵巣線量低減のために脊髄照射野下縁に広がらないビーム(non-dive rgent beam)を用いた照射法を推奨する。MRIを用いて卵巣位置を同定することは卵巣線量を予測し、将来の妊孕性に関し患者と家族に説明する際に役に立つ。

慶応大学での経験

全脳全脊髄照射(全中枢神経系照射)は、クモ膜下腔に進展・播種をきたしやすい脳腫瘍に行う照射法で、胎児性腫瘍(embryonal tumors)に分類される髄上皮細胞腫(medulloepitherioma)・神経芽腫(neuroblastoma)・脳室上衣芽腫(ependymoblastoma)・原始神経外胚葉性腫瘍(primitive neuroectodermal tumor (PNET))・髄芽腫(medulloblastoma)を中心として、多くの疾患に行われる。照射範囲が広くその副作用を考慮して、その適応は十分に検討する必要がある。治療法の進歩により長期生存の可能性が増大し、治療による晩発性の合併症の発生、特に若年女性の場合、身体の成長に加え妊与性の障害が問題視されるようになった。以前は、疾患治癒が第一義の課題とされ、妊孕性に関してはあまり検討されなかった。当施設でも本年9月に、全脊髄照射後に、正常妊娠および分娩が可能であった2症例を経験した。妊娠可能年齢女子のMRIの際に卵巣の位置を同定し、全脊髄照射時に卵巣を照射野からはずせるか否かに関して検討を行っており追って報告したい。


(茂松直之)

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