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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.71
若年小児の髄芽腫に対する術後化学療法単独治療

Treatment of Early Childhood Medulloblastoma by Postoperative Chemotherapy Alone

S. Rutkowsk, Udo Bode, Frank Deinlein, et al.
N Engl J Med 352:978-986, 2005

背景

髄芽腫の若年小児は予後が不良であり,生存児では認知障害のリスクが高い。若年小児髄芽腫の術後に、強化した化学療法単独で治療する試験を実施した。

方法

術後,患児に 3 サイクルの経静脈化学療法(シクロホスファミド,ビンクリスチン,メトトレキサート,カルボプラチン,エトポシド)と,メトトレキサートの脳室内投与を行った。完全寛解が達成された場合に治療を終了し、その後の白質脳症と認知障害を評価した。

結果

43 例をプロトコールに従って治療した。完全切除が行われた患児(17 例),残存腫瘍のある患児(14 例),肉眼的転移のある患児(12 例)において、5 年無進行生存率と全生存率(±SE)は,それぞれ 82±9%と 93±6%、50±13%と 56±14%、33±14%と 38±15%であった。肉眼的転移のなかった患児 31 例では,各生存率は68±8%と 77±8%であった。組織学的な線維形成、転移病巣の有無、2 歳未満の年齢、の3点が,再発と生存に関する独立した予後因子であった。再発時の治療は16 例中 8 例で奏効した。予期せぬ重大な毒性事例はなかった。23 例中 19 例では,MRI で無症候性白質脳症が検出された.治療後の平均 IQ は,同年齢の健常な対照群に比べ有意に低かったが,以前の試験で放射線治療を受けた患児よりも高かった。

結論

術後単独化学療法は,転移のない若年小児の髄芽腫に対して有望な治療法である。

コメント

症例数は少ないとはいえ、全例が予後が悪いとされる3歳以下の小児髄芽腫を対称にしていることを考慮すると、かなりの好成績の報告である。これまでおもに欧州で髄芽腫の術後に化学療法を行って、全脳全脊髄への照射線量を減らす、あるいは全脳に照射して脊髄は照射しない、またはまったく照射しない、という試験がなされてきたが、標準治療となったとはいい難い。

しかし小児に対する全脳全脊髄照射は避けられるなら避けるにこしたことはないし、3歳未満の場合はいずれにしても化学療法によって照射の時期を3歳以降に遅らせることは一般的に行われることである。本論文の方法は、特に転移のない症例では、少なくとも代替治療のひとつとしてご家族に説明する必要はあると思われる。


(近畿大・岡嶋 馨)

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