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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.85
喫煙、治療中断と肺機能障害に関して性別の違いは、限局期小細胞肺癌の治療のアウトカムにも影響を与えるか?

Does sex influence the impact that smoking, treatment interruption and impaired pulmonary function have on outcomes in limited stage small cell lung cancer treatment?

Videtic GM, Truong PT, Ash RB, Yu EW, et al.
Can Respir J. Jul-Aug;12(5):245-250, 2005

目的

治療効果を損なう変数を層別化して検討して、限局期小細胞肺癌(LS-SCLC)において男性と女性の生存率の違いを明らかにすることを目的とした。

方法

カナダ国立癌研究所のランダム化試験の『早期スタート』群の胸部放射線療法に準拠した同時併用化学放射線療法を1989から1999の間にうけた 215人のLS-SCLC患者の後顧的検討をおこなった。

結果

215人のLS-SCLC患者の126人(58.6%)は男性で、89人(41.4%)は女性であった。
Of 215 LS-SCLC patients, 126 (58.6%) were men and 89 (41.4%) were women.
186人の患者(86.5%)における治療期間中の喫煙状態:107人(58%)禁煙者s(内訳:男性 76人 ( 71% )、女性 31人(29% ))、および、79人(42%)の喫煙者n(内訳は男性36(46%)、女性43( 54% )がいた。(s:nはNS, S&F:S&Mは(P=0.001))。
Smoking status during treatment for 186 patients (86.5%) was: 107 (58%) nonsmoking (NS) (76 [71%] male [M]; 31 [29%] female [F]) and 79 (42%) smoking (S) (36 M [46%]; 43 F [54%]) (continuing-to-smoke F versus M, P=0.001).
毒性のため、化学療法放射線療法の間、56人の患者(26%)は放射線療法中断(RTI)をおこなった。RTIは性別(P=0.95)と関係していなかった。

2年間の集計データでは、性別による生存率と喫煙状態は以下の通りであった:F&NS = 38.7%, F&S = 21.6%, M&NS = 22.9%、そして、M + S = 9.1%(P=0.0046)と男性で照射中喫煙維持群で生存率が有意に低かった。また性別による生存率とRTI状態は、以下の通りであった:F & RTIなし= 32.4%、F + RTI = 23.6%、M + RTIなし= 23.0%、そして、M + RTI = 3.8%(P=0.0025)と、男性で放射線治療を中断した群で生存率が有意に低かった。
また、86人の患者(40%)で一酸化炭素拡散能力(DLCO)の記録があった。性別の生存率中央値の関係では、DLCO60%未満の患者では女性16.7ヵ月、男性12.1ヶ月、60%以上では女性15.1ヵ月、男性F 15.3ヵ月だった(NS)。初回再発は、132例(61%)で記録があり、内訳は男性の胸部再発は女性(24%)より男性で多く(45%)、頭蓋内再発は両性で同様だった(48%)。多変量解析は、照射期間中の喫煙の継続は、生存に悪影響を及ぼす最も強い要因であることをしめした。

結論

LS-SCLCでは、女性は、negativeな諸因子の有無によらず、全体的に男性より良好なアウトカムが得られていた。生存を改善する定量的因子は、女性では禁煙であり、男性ではRTIの回避であった。

解説

この論文の著者はこれまでSCLC治療のアウトカムに影響を与えるnegativeな因子(変数)を研究し、(1)化学療法の毒性、(2)低肺機能による治療中断や、(3)RT中の喫煙継続、(4)CCRTによるDLCOの低下がSCLC治療のアウトカムを悪化させることを報告してきた。一方で、近年、“女性”がpositive な予後因子であることがいくつかの論文で報告された。これは性差が予後因子でないとしてきたこれまでの考えを覆した。世間では肺癌予防のエストロゲン類サプリまで登場している。そこでこの著者らはこの予後因子“性差”に関して、negativeな諸因子を洗いなおしたのがこの報告である。結果は、もっとも端的に、まとめの通りであるが、本文の生存率曲線では、性別による差が歴然とあり、“男性”は不幸な予後因子で、negativeな諸因子の影響を相加的にきっちり受けているように見える。結論に書いていることがら以上の直感的解釈を許してもらえるならば、私たち放射線治療医は、喫煙維持の回避や、RTIの回避を、積極的に推進すべきと思えた。また、エストロゲン類サプリへの期待(逆にいうとテストステロン系(DHEA)などへの警告)を頭から否定することは今の段階では難しそうに思えた。


(岸 和史)

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