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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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No.92
膠芽腫に対する放射線治療とテモゾロマイドの同時併用療法

Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma

Stupp R, Mason WP, van den Bent MJ, et al.
N Engl J Med 352:987-996, 2005

背景

膠芽腫は成人の最も頻度の高い脳腫瘍で致死的な腫瘍である。現在の標準治療は可能な限り広範に腫瘍を切除した後に放射線治療を行うことである。この研究では放射線治療単独群と放射線治療中、治療後にテモゾロマイドを投与した群との間で治療効果と安全性について比較した。

方法

新規に病理学的に確認された膠芽腫を次の二群に分けた。放射線治療単独群(一回2Gy、一週5回、総線量60Gy)とこれと同じスケジュールの放射線治療にテモゾロマイドを体表面積当たり一日75mg/mm2を初日から最終日までに投与した後に補助化学療法としてテモゾロマイドを体表面積当たり一日150~200mg/mm2、5日間の投与を1クールとして28日周期で6クール投与した群である。生存率をプライマリーエンドポイントとして両者を比較した。

結果

15ヶ国、85施設、573人の患者が上記2群に割り付けられた。84%の患者は減量手術を受け、残りの16%の患者が生検のみを受けた。観察期間中央値は28ヶ月でテモゾロマイド併用群の生存中央値は14.6ヶ月、放射線治療単独群が12.1ヶ月であった。調整なしのハザード比は0.63(95%信頼区間0.52-0.75、P値<0.001(ログランクテスト))。2年生存率は併用群で26.5%、単独群で10.4%であった。併用群では7%にグレード3-4の血液毒性が認められた。

結論

テモゾロマイドを加えることにより、新規に診断された膠芽腫に対してわずかな毒性の増加で臨床的に意味ある生存期間の延長が得られた。

コメント

この論文は膠芽腫のみを対象として経口アルキル化剤であるテモゾロマイドを併用することによって臨床的に有意な生存期間の延長が示された論文である。悪性グリオーマの治療は1978年にWalkerらによって術後照射により予後が改善し、投与線量と生存期間に正の相関があることが報告され、FineらがメタアナリシスによってBCNU、CCNUの化学療法の併用により生存期間が延長するということが示されて以来、放射線治療60Gy30分割とニトロソウレア系抗癌剤との同時併用が標準治療とされてきた。以後、四半世紀の間、膠芽腫の治療の成績はあまり向上しなかった。本論文は膠芽腫のみを対象とした比較試験で、テモゾロマイドを投与した群に有意差をもって生存期間の延長が認められ、これに続く論文でHegiらはテモゾロマイドを追加することによって利益が得られる群を見いだすことに成功している(methylated MGMT promoterを持つ群)。テモゾロマイドは経口薬剤で、外来治療がしやすく、今後、標準的な治療法になっていくものと推測する。なお、この薬剤は日本においては治験中であり、早期に認可されることが望まれる。


(徳植 公一)