No.93
乳房温存療法後の血管肉腫のリスク:臨床家への警告
Risk of Angiosarcoma Following Breast Conservation: A Clinical Alart
John GW, Azhar Q, Justin EW, et al.
The Breast Journal 11:115-123, 2005
稀(本邦では0.2%、欧米では0.14%との報告がある)ながら乳房切除術後や乳房温存手術後の放射線治療により二次性血管肉腫を発症することが知られている。本報告は乳房温存療法後の二次性血管肉腫としてこれまでに報告された116例(自験例4例を含む)のレビューであり、実際の発生頻度が従来の報告より高い可能性があること、また比較的急速に進行する疾患でありながら初発症状で誤診されやすいことについて警鐘を鳴らすものである。
フランスの国家的調査では18,115例中9例(期間有病率0.05%)に発症がみられたが、著者らの施設でこれに相当する群(乳房温存手術を受けた群でその85%に放射線治療が施行されている)では1,168例中4例(0.34%)に発症をみた。同様にオランダの国家的調査では16,500例中21例(0.13%)に発症がみられたが、これに相当する群(放射線治療後5年以上の観察を経た群)では423例中4例(0.95%)に発症をみており、有病率は従来の報告の7倍に及んだ。わずか4例の経験とはいえ、統計解析の結果確率的変動は重大な要因ではなかったとしており、実際の発症頻度は文献的報告より高い可能性があるとしている。
病巣は紅斑、紫斑、小結節、丘疹、水疱、潰瘍など多彩な形態をとり、なんらかの皮膚変化は必発であるものの、湿疹、(マンモグラフィによる圧迫を含む)外傷、感染、術後性リンパ浮腫、あるいは放射線治療後の皮膚変化などと誤認され確定診断が遅れた例が文献で多数報告されている。特に腫瘤が触知可能なものはわずか10%程度に過ぎないことに注意する必要がある。ひとつの鑑別のポイントとして、放射線照射による皮膚変化は36ヵ月以内にほぼ安定化するのに対し、放射線誘発血管肉腫の潜伏期間は中央値で71ヵ月と長く、36ヵ月以内に発症したものは116例中4例(3.4%)に過ぎなかったという点が挙げられている。
また、自験例4例中3例で皮膚症状に先行して乳房痛を訴えたという。ちなみに、平均潜伏期間が放射線誘発軟部組織肉腫の10年に比べ放射線誘発乳房血管肉腫で6年と有意に短い原因として、血管肉腫の発症リスク因子である慢性的リンパ浮腫により潜伏期間が短縮されている可能性が示唆されている。
確定診断は生検によるが、血管肉腫は正常組織との境界部で高い悪性度を示さない傾向があり、その様な部位では放射線照射後の異型血管との鑑別が付けにくいため、パンチ生検より直視下生検を推奨している。
標準治療は乳房切除術とされているが、手術単独局所再発率は73%と高く、術前化学療法や術後放射線治療などの集学的治療が望ましいとされている。筆者らはほとんどの症例で加速過分割照射による術後放射線治療を行うことを推奨している。
本邦でも乳房温存療法の普及が進み症例が蓄積されるに従い、二次性血管肉腫に遭遇する機会は徐々に増えるものと予想される。皮膚病変を発見していながら誤診で確定診断の遅れを招かない様に、基本的知識は身に付けておく必要があろう。
(永倉 久泰)