No.94
乳房温存術後の切除断端に関する定義の現状
Current perceptions regarding surgical margin status after breast-conserving therapy. Results of a survey.
Taghian A, Mohiuddin M, Jagsi R, et al
Ann Surg 241:629-639, 2005
目的
乳房温存術後の切除断端の状態は、最も重要な局所再発の予測因子と考えられる。本研究の目的は、北米と欧州の放射線腫瘍医が腫瘍摘出術後の切除断端陰性と切除断端近接をどのように定義しているか、切除断端の状態による再切除推奨基準をどのように決めているかを調査することである。
方法
初回調査で放射線腫瘍学のトレーニングを完了したESTROとASTROのactivememberに調査票を送付した。回答者は様々なシナリオに対して切除断端を陰性とするか近接とするかを質問された。第2調査では、無作為に抽出された合衆国の500人の放射線腫瘍医に対して、切除断端の状態によって再切除を推奨するのはどのような場合であるかが質問された。
結果
初回調査では北米から702、欧州から130の回答が得られた。再切除の推奨条件についての第2調査では130の回答が得られた。北米では46%が 切除断端陰性の定義を“断端に腫瘍細胞がないこと(NSABP定義)”とし、7.4%が“切除断端<1mmに腫瘍細胞がないこと”、 21.8%が“<2mmに腫瘍細胞がないこと”と回答した。欧州では、それぞれ27.6%, 11.2%, 8.8% であった(<0.001)。欧州では、腫瘍細胞と切除断端の距離が5mm以上必要であるとする回答者が北米よりも多かった。
結論
今回の調査研究では、北米と欧州の放射線腫瘍医間で切除断端陰性の定義が有意に異なっていることが示された。これらの事実から切除断端陰性ならびに再切除の推奨基準について普遍的な定義を設定する必要がある。
コメント
乳房温存術後照射で乳房内再発を左右するもっとも重要な因子は切除断端の状態である。しかし、切除断端の定義は北米と欧州間では統一されておらず、また同一国内でもばらつきがある。日本でも切除断端の病理診断基準ならびに診断精度には施設間差があり統一されていない。これは、乳房温存療法での局所制御率を評価する際の重要な問題点である。ちなみに、第14回乳癌学会(2006, 金沢)でDr. MonicaMorrowが特別講演“Current controversies in the local therapy of breastcancer: margins and non surgical ablation”で本論分を紹介され、欧米での切除断端の定義の問題点を指摘されていました。
(野崎 美和子)