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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.95
アメリカの対がん戦略の展望

1) A Midpoint Assessment of the American Cancer Society Challenge Goal to Halve the US Cancer Mortality Rates Between the Years 1990 and 2015.

1) Byers T, Barrera E, Fontham ETH, et al.
2) Marks JS, Oreans CT, Gerlach KK.
Cancer 107:396-405, 217-220 Editorial to Paper 1), 2006

最近の上記論文で、アメリカの対がん戦略の中間評価を知ることができました。非常に興味ある内容です。

1)の論文はAmerican Cancer Societyが目標としてきた1990から2015年の25年間に癌の死亡率を50%減らすという目標に対する2002年時点での中間 評価を行ったものであります。主要な癌としては肺癌、大腸癌、乳癌と前立腺癌を取上げております。これらの4つの癌では女性の肺癌を除き、年齢調整死亡率はほぼ目標どおりの減少を示していることが注目されます。

しかし、すべての癌では目標よりもやや高めで、上記の4の癌に比べて死亡率減少が少ないことをうかがわせています。全体として、死亡減少の大きな原因は禁煙をはじめとする一次予防と乳がん、大腸がんと前立腺がんではそれぞれ、マンモグラフィ検診、内視鏡検診とPSA検診が寄与している割合が多いとしております。
各論として、肺癌については禁煙政策の効果を高く評価しているのは当然ですが、新しい禁煙支援用の薬が有用になることも述べています。これが第一の対策です。喫煙率は18歳以上の成人で、男性が25%、女性が21%です。男は日本よりもかなり少なく、女は多いですね。進行肺癌の治療の進歩については大きな期待はないようです。

一方、肺癌の検診については早期肺癌の治療が非常に有効であることから、CT検診のdown-stagingの効果に期待を示しております。ただ、女性の肺癌は増えており、今後の禁煙活動に重点をおいています。
乳癌については治療法の進歩、特にAntiestrogen Therapyの利用とマンモ検診の普及が寄与していると述べております。マンモ検診の受診率(2年間)は1990年の58.3%から着実に増加し、2002年には76%に達しています。今後の心配な点はHRTの拡大と肥満の増加であるといっております。それにしても受診率の高さは日本に比べて桁違いですね。
大腸癌と前立腺癌については省略しました。

いずれにしても、アメリカのシステマティックな戦略には感心します。わが国でもがん対策基本法が制定されたことでもあり、是非、死亡減少に向けた総合戦略を考えて頂きたいと存じます。
ただ、アメリカには大きな問題があります。下記の文献で知りました。

3) The Silent Epidemic- The Health Effects of Illiteracy.
Erin N. Marcus.
N Engl J Med 2006;355:339-341

この3)の文献によりますと、2003年におけるアメリカ人の成人の14%(3000万人)が文章を読むこと(Prose Literacy)ができないのだそうです。これらの人は Below Basicと定義されており、医師が書いた文章がわからず、健康状態も悪いようです。これらの方々は恥ずかしいので、外来を訪れることも少なく、このことを著者は「無言の疾病:Silent Epidemic」と呼んでおります。問題は多くの医療関係者がこの現実があることを知らないことだと言っています。文献1)にもSocioeconomic Factorsという項目があり、人種と経済格差について触れています。黒人の死亡率は減少はしているものの白人との間には25%の差があること、癌の死亡率は貧乏人の多い地域は高いことを述べています。3)と一致しますね。

これは医療以前の重大な課題ですね。これがアメリカ社会の不平等の根源にあると私は信じます。幸い、日本にはこれほど酷い不平等はないと思いますが、今後もこのような「無言の疾病」がわが国で起きないようにしなければなりません。それにしても、アメリカという国はものすごく優れたところがあるのに、このような悲惨な実態をかかえているのですね。彼らがこの状況をどのように克服するのか注目しております。彼らの良い点と欠点を知ることができました。ご参考になれば幸いです。

以下から私の論文をダウンロードできます。
http://takeshiiinuma.at.webry.info/


(飯沼 武)