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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

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No.101
放射線誘発心血管病変:疫学的証拠は放射線生物学的データと矛盾しないか?

Radiation-induced cardiovascular diseases: Is the epidemiologic evidence compatible with the radiobiologic data?

Schultz-Hector S, Trott KR.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 67(1):10-18, 2007

日本の原爆被爆生存者の生涯追跡研究より、放射線照射は明らかに虚血性心疾患、特に心筋梗塞を増加させることが証明された。
同様に、非常に多数の乳癌の術後照射患者あるいは消化性潰瘍患者の疫学研究によって、心臓に対する平均等価一回線量およそ2Gyの放射線照射は照射後10年以上経過してから有意に虚血性心疾患を増加させる事が立証された。
これらの疫学調査の結果は、実験動物における放射線誘発心疾患の病因の放射線生物学的データと矛盾しない。それを決定する組織は、脈管内皮、特に動脈内皮のようであるが、前炎症反応や他の変化と言うような早期の機能的な変化を導きそれが徐々に進行する。放射線治療の最適治療計画と、さらに潜在的な血管内治療の戦略の基準を明らかにするために、放射線誘発血管内皮の変化と加齢性アテローム性動脈硬化の初期段階との相互作用に研究を集中すべきである。

コメント

CRITICAL REVIEWという見出しでRed J新年号の10ページから9ページにわたって出ていましたので、ご覧になった方も多いと思いましたが、見逃した方がいらしたらお知らせしておいた方が良いと思い敢えて選びました。心臓の有害反応というと心膜炎や心筋炎を思い浮かべますが、それらは大した問題でなく、非常に低い線量で、晩期になって生じて来る心筋梗塞などの虚血性心疾患の問題を多くの論文をReviewした結果で指摘しています。乳癌の術後照射にせよ、胃潰瘍の胃酸を押さえるための照射(1936-65年)にせよ、原爆被爆者にせよ、心臓のごく一部が照射されているのみで、線量も低いのに有意に虚血性心疾患が増しているというのはにわかには信じられない気がしましたが事実のようです。しかも、閾値は1Gyとの事です。知っておくべき事項と感じました。


(唐澤 久美子)

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