JASTRO

公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

ホーム > JASTRO 日本放射線腫瘍学会(医療関係者向け) > 学会誌・刊行物 > Journal Club > 領域リンパ節照射併用あるいは非併用の乳房温存療法において腋窩リンパ節切除数とリンパ節転移率が領域リンパ節再発に与える影響

No.102
領域リンパ節照射併用あるいは非併用の乳房温存療法において腋窩リンパ節切除数とリンパ節転移率が領域リンパ節再発に与える影響

The Impact of the Number of Excised Axillary Nodes and of the Percentage of Involved Nodes on Regional Nodal Failure in Patients Treated by Breast-Conserving Surgery with or without Regional Irradiation

Fortin A, Dagnault A, Blondeau L, Thuc TT, Larochelle M.
Int J Radiat Oncol Biol Phys 65(1):33-39, 2006

目的

乳房温存手術後に領域リンパ節照射を併用するか否かは通常、リンパ節転移数により決める。このリンパ節転移数は切除した腋窩リンパ節の数により決まる。この研究ではリンパ節転移率が領域リンパ節照射の適応決定に役立つか否かを検討した。

対象と方法

1972年から1997年までL'Hotel-Dieu de Quebec病院で治療した1372人のリンパ節転移陽性T1、T2乳癌患者を対象にレトロスペクティブな解析を行った。477人に領域リンパ節照射を行い、904人には行わなかった。全乳房に対して50Gy/25分割/5週間、あるいは45Gy/20分割/4週間を照射した。領域リンパ節照射では、後方腋窩ブースト(posterior axillary boost)を加えて、前方から鎖骨上窩~腋窩に対して腋窩中央で44Gy、鎖骨上窩3cm深で40Gyを照射した。

結果

領域リンパ節照射をしない場合、リンパ節転移率が大きいと、腋窩リンパ節再発が明らかに増える。リンパ節転移率が50%未満から50%以上に増えると、10年腋窩リンパ節制御率は、97%が91%に下がる(p = 0.007)。領域リンパ節照射をすると、リンパ節転移率に関係なく(腋窩および/または鎖骨上)、リンパ節再発全体がかなり低下する。しかし領域リンパ節照射により腋窩再発が有意に減少する (2% vs 9%、p = 0.007)のは、リンパ節転移率がある値より大きい時のみ(切除リンパ節数が1-3個の時は転移率40%以上、4個以上の時は転移率50%以上)である。

結論

領域リンパ節照射は、リンパ節転移率を考慮して適応を決定すべきである。切除リンパ節数が1-3個の時はリンパ節転移率が40%以上で、4個以上の時は50%以上で、領域リンパ節照射を行うべきである。

コメント

乳房切除術後に領域リンパ節照射を併用するか否かの適応決定には通常、リンパ節転移の程度が重要とされています。一方、乳房温存療法に領域リンパ節照射を併用するか否かの適応についての研究は少なく、2005年版の日本乳癌学会のガイドラインにおいては、2004年時点までの文献がレビューされ、鎖骨上窩リンパ節領域に対する予防照射に関しては推奨グレードC(エビデンスは十分とは言えないので、日常診療で実践することは推奨しない)、腋窩リンパ節領域に対する予防照射に関しては推奨グレードD(患者に害悪が及ぶ可能性があるというエビデンスがあるので日常診療で実践しないように推奨する)となっています。

乳房温存療法での領域リンパ節照射には十分なエビデンスがないというのが現状でのコンセンサスでしょうが、2005年(47回)、2006年(48回)のASTRO学会でのeducational sessions(Difficult Cases in Breast Cancer)でも、乳房温存療法時の鎖骨上窩に対する領域リンパ節照射については、リンパ節転移やLVSIの程度など適応と照射範囲についてかなり意見が分かれるものの照射自体を推奨するケースもあるようです。

我々の日常診療においても、腋窩リンパ節転移の程度が著明である場合や、近年増加している術前補助化学療法後に乳房温存療法を適応拡大して行い、その際腋窩リンパ節転移が残っていた場合など、領域リンパ節照射を併用するか否か、迷うケースがあると思います。私は毎年50-60人の乳房温存療法の新患設定を行いますが、推奨グレードCの鎖骨上窩リンパ節領域照射を患者さんにすすめる判断をした場合、インフォームドコンセントの際に患者さん・私ともども、決断後に歯切れの悪さが残ります。皆様は如何されているのでしょうか。ガイドラインに従って一律に実施されないのでしょうか。例外基準を設けられているのでしょうか。
 
今回の論文は、同著者がInt J Radiat Oncol Biol Phys 56(4):1013-1022, 2003で、「乳房温存療法時、腋窩リンパ節転移4個以上の時は領域リンパ節照射を行うべきである」と結論した論文の続編です。同著者の一連の研究において、領域リンパ節照射として鎖骨上窩のみでなく腋窩まで含めた照射範囲をとることは議論の余地を残すかもしれませんが、今後早くNCIC[MA-20]など第III相試験レベルでの長期観察後の研究結果が報告され、乳房温存療法時のリンパ節領域照射の適応と方法が確立してほしいものです。


(黒田 昌宏)

top