JASTRO

公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

ホーム > JASTRO 日本放射線腫瘍学会(医療関係者向け) > 学会誌・刊行物 > Journal Club > 超高齢者に於ける転移性骨腫瘍による脊髄圧迫に対する放射線治療

No.104
超高齢者に於ける転移性骨腫瘍による脊髄圧迫に対する放射線治療

Radiotherapy of metastatic spinal cord compression in very elderly patients

Dirk Rades,M.D., Peter J.Hoskin,M.D.,Johann H.Karstens,M.D. et al.
Int.J.Radiation Oncology Biol. Phys. 67(1):256-263, 2007

目的

高齢者人口の増加により、がん治療を受ける高齢者の比率も増加している。今まで殆ど報告の無かった、超高齢者の転移性腫瘍による脊髄圧迫(metastatic spinal cord compression: MSCC)に対する放射線治療の結果について検討した。

対象及び方法

短期照射(治療期間1-5日間)と長期照射(同2-4週間)の放射線治療を受けた75歳以上のMSCCの患者308名について、機能的な改善、局所効果及び生命予後に関して検討した。 更に性差、PS,確定診断が付いてからMSCCが生ずるまでの期間、原発腫瘍、含まれる椎体の数、他の骨組織又は他臓器転移の有無、歩行状態、運動機能障害の進行速度等の予後を左右する項目に関しても検討した。

結果

運動機能の改善が全体の25%、現状維持が59%に夫々認められた。1年間の局所コントロールと1年生存率は、夫々92%と43%であった。機能の改善は、歩行状態及び緩慢な運動機能障害にほぼ比例した。長期間の放射線治療の方がより良好な局所コントロールを齎した。確定診断がついてからMSCCが生ずるまでの期間が長く、原発が乳癌・前立腺癌、悪性リンパ腫・多発性骨髄腫等の場合で、多臓器又は他部位の骨転移が無く、歩行障害が無く、運動機能障害が緩徐なもの程生命予後が良かった。

結論

機能障害の改善と生命予後に関しては、短期間の放射線治療と長期間のそれの間に有意差は無かった。長期間の放射線治療の方が、良好な局所コントロールを齎した。長期生存が見込まれる患者には長期間の放射線治療を、そうでない患者には短期間の放射線治療を行うのが望ましい。MSCCの超高齢患者の治療法の選択基準は若年者のそれと殆ど大差無かった。

コメント

転移性骨腫瘍による脊髄圧迫が原因で生ずる対麻痺は日常的にしばしば遭遇する病態ですが、患者のQOLを最も損なう疾患の一つです。この論文は特に高齢者に関して多方面からまとめたところが特徴的です。まず違和感を感じたのが、「高齢者」の定義です。この論文では65歳以上を高齢者、75歳以上を超高齢者と定義していますが、平均寿命が男性77、女性85という本邦では当てはまらないのではないか、と感じました。この年代の症例数が少ない、と著者は述べていますが、本邦では決してそのようなことはない、と考えます。他には、局所効果や予後を左右するファクターとして、PS, 原発腫瘍、他臓器転移の有無、麻痺が生じてからの期間、照射開始時の歩行状態、照射スケジュール等に関して検討していますが、これらも大体従来から言われてきたことと大きな変化はありません。結局結論として、超高齢者であっても若年者と同様の治療が必要で、照射スケジュールを規定するものは長期生存が望めるか否かによる、という些か平凡すぎる結末に終わっています。しかも最終的にテーマが照射スケジュールのことに微妙にすり替わっており、論点のズレを感じます。私事で恐縮ですが、私も一時期高齢者・超高齢者の放射線治療に関してまとめた経験がありますが、結局高齢者も若年者も基本的なことに関しては大差無い、という結論でした。ただ、高齢者の場合個人差が大きいことと、一般的に若年者と比較して各種機能が低下していることにより、手術や化学療法の適応から外れることが多いのですが、放射線治療であれば可能な場合が多い、ということは強調しておくべきかと思います。あと付け加えさせて頂ければ、1)麻痺が生じてから、照射による改善が見込めるゴールデン・タイムは通常48時間とされていますが、これは原発腫瘍により大きく異なります。悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、精巣腫瘍、小細胞肺癌等、放射線高感受性腫瘍の場合は、状況にもよりますが、発症から2週間以上経過しても麻痺が改善する可能性は残されています。2)やはり原発腫瘍による差異に関してですが、乳癌・前立腺癌とその他の癌は分けて考えた方が良いような気がします。乳癌・前立腺癌の場合は、骨転移のみで延々と長期生存するケースがしばしば見受けられます。言い換えれば、骨転移のみコントロールすればかなりの長期生存が望まれる、という意味です。いずれにしても、骨転移に対する照射スケジュール及び高齢者に対する放射線治療に関しては、未だにはっきりした結論が出ていない、というのが実情かと考えられます。


(北原 規)

top