No.220
直腸癌に対する化学放射線治療のあとの局所切除または経過観察による臓器温存
Organ preservation with local excision or active surveillance following chemoradiotherapy for rectal cancer
Creavin B, Ryan E, Martin ST, et al.
Br J Cancer 2017, 116(2):169-174.
目的
直腸癌治療による合併症を低減し機能温存をはかるため、根治切除に代わる温存療法を検討する。
対象と方法
・局所進行直腸癌(T3 以上あるいは 所属リンパ節転移陽性)に術前化学放射線治療(50-54Gy、5FU)を実施
・6-8週後に再評価し、客観的臨床効果 (objective clinical response)を以下の二者と定義
(1) 内視鏡的完全寛解(瘢痕のみ): 'watch and wait' へ
(2) 3cm 以下の潰瘍の残存: 経肛門的局所切除へ (その結果ypT2あるいは断端陽性の場合根治手術)
(1)(2)とも、画像検査で相当する効果がみられ、かつ遠隔転移がない。
結果
・2005-2015年に登録された785例の直腸癌のうち、362例が局所進行であったため化学放射線治療を行った。
・そのうち 60例(16.5%)をobjective clinical responseと判定。60例中、
(1) 内視鏡的完全寛解10例
(2) 3cm 以下の潰瘍が残存 50例
・上記(2) に経肛門的局所切除を行った結果、15例が根治切除(total mesorectalexcision)を要した。
・objective clinical response とならなかった 302例のうち、根治切除の結果48例(15.9%)は病理学的完全寛解と判明した。
・根治切除群と臓器温存群の生存率に有意差なし。 (OS: 85.6% vs 93.3%, p=0.414、DFS: 78.3% vs 80%, p=0.846)
・臓器温存を行った 45例のうち再発は 4例(8.9%)のみ。
結論
局所進行直腸癌に対する臓器温存療法は、術前治療に対する効果良好群には選択可能である。術前治療後の局所切除は有効な判定基準となる。
コメント
術前化学放射線療法は、局所進行直腸癌の制御率の向上を目的に、標準治療として国際的に確立している。その一方、国内では一般に行われているとは言い難い。さらに2010年ごろから局所制御の向上のみでなく QOLに着目する海外の報告が増加している。直腸癌は、まさに日本が世界の標準治療に遅れている疾患の代表とも言える。
化学放射線療法後に根治切除(total mesorectal excision:通常は側方郭清を伴わない)を行うと、10-30%の症例で病理的完全寛解が得られることは良く知られている。手術とその合併症を回避できる群があるなら放射線治療の役割は大きい上、照射方法は比較的単純で化学療法とあわせても外来通院で可能な場合が多い。(実際、この論文に放射線治療に関して 「long course, 50-54Gy」 と書いてあるだけで照射方法、線量分割やCTVの範囲はまったく書かれていないのは、照射方法が単純だからなのか、それとも著者が外科の先生だからか。)
問題は臨床的完全寛解の判定が困難なことであり、リンパ節転移や粘膜下の腫瘍の残存を正確に判定することは不可能である。そこを本論文では、単純に内腔からの観察を基本とし、経肛門的内視鏡切除も併用して判定しているところが特徴である。
それにしても、50Gy 程度の線量で pCRを得られるならば、今世紀の放射線治療医はついに「腺癌には効きにくい」という亡霊から逃れられるのか。
PMID: 27997526
Evidence level 2b
(近畿大奈良・岡嶋 馨)