No.105
放射線による晩期有害事象の予防:放射線生物学と分子病理学の接点
Preventing or reducing late side effects of radiation therapy: radiobiology meets molecular pathology
Soren M Bentzen
Nature Rev Cancer 6:702-713, 2006
抄録
おおよそ半数の癌患者に,根治的,対症的な意味で放射線治療がなされている.放射線治療は,ほとんどの場合,形態と機能の温存に貢献している.しかし不幸なことに,早期ならびに晩期の有害事象のため放射線の線量に限界があるし,放射線の有害事象は長期の健康に関するQOLに影響を及ぼしている.
最近の分子病理学と正常組織に対する放射線生物学の進歩により,晩期有害事象の発生メカニズムが解明されてきた.以前は,早期のダメージが重要と考えられていたが,最近ではダメージの認識と組織の再構築へと研究の興味が移ってきた.これらの研究結果は,放射線による有害事象を予防しそれを減らすための新しい薬物学的な方法の研究にとって刺激的なことである.
内容の抜粋
放射線腫瘍医は,正常組織の反応と腫瘍の制御の両方のバランスを考えて,治療法を検討している.放射線による有害事象には,早期および晩期の反応があり,それぞれに特徴があるのは言うまでもない.1990年半ばまでは,いわゆるターゲット細胞仮説が有害事象を説明するために使われてきた.これは,直接的な幹細胞の障害により組織が機能障害に陥るというものである.
しかし,インビトロの細胞感受性と臨床での感受性が必ずしも合わないことや,バイスタンダー効果の解析などから,ターゲット細胞仮説には矛盾が生じてきた.特に,放射線線維症などの晩期有害事象の説明は困難と考えられるようになった.最近では,照射後早期に血管内皮細胞,線維芽細胞,マクロファージなどの多くの間質細胞がオーケストラのように協調して,時間をかけて過度の細胞外基質やコラーゲンを蓄積することで,不均衡な組織構築を生じるのが晩期有害事象のメカニズムと考えられている.正常にregulateされていないサイトカインカスケードの活性化により,線維化が生じるが,その鍵となる分子はTGF-βである.
晩期有害事象の予防のために考えられることとして、amifostine の使用(薬剤の副作用あり),TGF-βpathwayの抑制(antisense, TGF antibody, dominant negative receptorなど),SMAD3の制御,ROSとRNS pathwayの制御(antioxidant therapy),再生医療でのstem cellの使用などが解説されている.
コメント
普段は日常臨床に没頭していますが,外科の国際シンポジウムで放射線有害事象の話をすることになり,実は放射線の有害事象のなりたちについてよく理解していなかった事に気づきました.放射線腫瘍医の多くは,もう少し照射できたらもっと良い成績をあげられるのではと考えることが少なくないと思います.現在は機器の進歩により線量の集中性を高めることで,治療成績を向上させようとする流れがあると思います.放射線治療機器の進歩が止まった時には,やはり生物学の貢献に期待したいと思います.
(桜井 英幸)