No.106
睾丸の悪性胚細胞腫瘍
Testicular germ-cell cancer
Horwich A, Shipley J, Huddart R.
Lancet 4 367:754-765, 2006
慶應義塾大学病院では一昨年まではI期の睾丸精上皮腫の術後、傍大動脈および患側腸骨リンパ節領域の術後照射を1.6Gy×15回(24Gy)行ってきました。近年30年の症例で照射後の再発は皆無でしたが、この照射の意義に関し泌尿器科とも相談し、最近では経過観察症例が多くなりました。他の施設ではどのようにしていますでしょうか?色々な多くの報告がありますが、2006年LANCETのSeminar"Testicular Germ-cell Cancer" の中の一文の意訳を掲載します。
Seminoma management
Stage I seminoma
I期の睾丸精上皮腫の治療成績は極めて良好で、完治率は99%である。睾丸切除後のこれまでの標準的治療法は傍大動脈および患側腸骨リンパ節領域の術後照射であったが、照射による慢性期合併症の観点から見直された。
2603例の報告から放射線照射後の再発の危険度は5%未満であった。再発例も多剤化学療法で治療可能でcause-specific survival は100%である。最近は合併症を回避する放射線照射が取り入れられており、Medical Research Councilのトライアルでは照射野を傍大動脈のみとし、占領も20Gy(10回)のみとして治療成績が同等であると報告している。
1980-1990年代のデンマークでのやや小規模のグループでの報告ではあるが、睾丸切除後のI期精上皮腫の経過観察のデータでは、638人の患者で10年再発危険度は21%、cause-specific survival は99.1%であった。多変量解析の結果では再発は、腫瘍径が4cmを超える症例および、rete testis浸潤症例に有意であった。この両方の危険度を持つ症例では再発率が31.5%で、それ以外のグループでは12-16%であった。
I期の睾丸精上皮腫の再発予防に術後化学療法も試みられ、carboplatin単剤の報告が多く見られる。再発率は3.8%程度であり、2サイクル以上の投与ではこれをさらに低減できる可能性もしめされたが、I期の睾丸精上皮腫1477症例のcarboplatin単剤1サイクル投与と、carboplatin+放射線照射を比較したrandomised trialの結果では、3年非再発率は96.6%と95.4%で同等であった。
I期の睾丸精上皮腫において、いくつかのセンターではリスクグループ別の治療方針が立てられている。Spanish Germ Cell Cancer Groupでは1999-2003年の314症例に対し、腫瘍径が4cmを超えrete testis浸潤のある症例に対し2サイクルのcarboplatin、それ以外の症例は経過観察として、中間観察期間34ヶ月で、再発患者は13例、5年生存率は100%と報告している。
(茂松 直之)