No.111
高齢者の膠芽腫に対する放射線治療
Radiotherapy for Glioblastoma in the Elderly
Keime-Guibert F, Chinot O, Taillandier L, et al.
N Engl J Med 356:1527-1535, 2007
70歳以上の高齢の膠芽腫の患者における放射線治療の有効性を検討するため無作為比較試験を施行した。
対象は70歳以上の悪性星細胞腫と膠芽腫で、支持療法のみの群と支持療法と放射線治療(一回1.8Gy、総線量50Gy)に無作為に割り付けたとしている。少なくとも解析された症例は膠芽腫のみで、プライマリーエンドポイントは生存率、セカンダリーエンドポイントは無再発生存率、生活の質、神経性神学的な評価で、後二者はQLQ-C30、MMSEの質問表も用いて行った。結果は10施設から85人が登録された。この試験は最初の中間解析で放射線治療に支持療法を加えた群が設定された値以上に優れていたために中断となった。放射線治療を受けた39患者の生存中央値は29.1週、支持療法のみの43患者では16.9ヶ月で、ハザード比は0.47(95%CI, 0.29-0.76; P=0.002)であった。同様に無増悪生存率もそれぞれ14.9週、5.4ヶ月で、ハザード比は0.28(95%CI, 0.17-0.47; P<0.001)であった。放射線治療に支持療法を加えた群に重大な副作用はなく、生活の質、神経性神学的な評価にも両群に有意差はなかった。
このことから、高齢者の膠芽腫に対して放射線治療は有効と結論した。
良くデザインされた臨床研究で、高齢の膠芽腫という非常に予後が悪いと予想される病態においても放射線治療は意味ある生存の延長を示したという論文である。膠芽腫に対する標準治療は可能な限り腫瘍を摘出した後に、化学放射線療法を施行することである。
放射線療法は一般に一回2Gy、総線量60Gy、化学療法は少なくともテモゾロマイド以前はニトロソウレア系の抗がん剤との同時期併用であった。
しかし、膠芽腫は極めて予後が悪い疾患で、これに高齢、一般状態の低下という予後悪化因子が加わると更に予後が低下する。このような患者に標準治療を行うことは困難という考えのもとに、摘出術後に標準的な総線量60Gy30分割と短期治療を目指した40Gy15分割を投与した群の間で比較試験がなされた。結論は生存期間に差はなく、治療期間を短縮できる後者が良いという結論となった (J Clin Oncol 22: 1583-1588)。
本論文は、70歳以上の高齢の膠芽腫に対して放射線治療は有効であることを示したもので、高齢の膠芽腫に対する治療の一つの指針となれば幸いである。
(徳植 公一)