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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.114
治療抵抗性のケロイドに対する術後放射線治療:前向き臨床研究

The results of surgical excision and adjuvant irradiation for therapy-resistant keloids: a prospective clinical outcome study.

van de Kar AL, Kreulen M, van Zuijlen PPM, et al.
Plast Reconstr Surg. 119(7):2248-2254, 2007

背景と目的

ケロイドに対する最適な治療法についてはエビデンスレベルの高い研究がなされていないため十分なコンセンサスは得られていない。一応International Clinical Recommendation on Scar Managementによると最も効果的な治療法は切除術後に放射線照射を行うこととされているが、残念ながらそれは後向き研究の結果に基づいた推奨である。

対象と方法

治療抵抗性の難治性ケロイドに対する「切除+放射線照射」の再発率を評価した。治療抵抗性とは、過去にステロイド局注、圧迫療法、切除、レーザー治療を行ったが再発したものである。病巣は全摘し、14日後に抜糸した。その24時間以内に術後照射を開始し、250-kV electron beam(このように記載されいる)で総線量12Gyを連日3-4分割で投与した。経過観察期間は12か月以上である。治療効果は再発の有り無しで評価した。再発の定義は「術創を越えた隆起性病変が生ずる」であり、肥厚性瘢痕の発生は容認した。瘢痕創部の評価にはPatient and Observer Scar Assessment Scaleを用い、患者による自覚症状を含む評価も行った。摘出標本の組織学的検討で典型的所見を認めたもののみを対象とした。

結果

2000年 - 2002年の間に34名46病変が登録されたが、9名10病変は必要な期間経過観察できず除外された。また、4名の4病変は組織学検討が為されず除外された。結局21名32ケロイドを評価した。18名27ケロイドが黒人であった。平均経過観察期間19か月で、23か所が再発し、再発率は71.9%であった。

部位別再発率:耳部59%(10/17)、顎部100%(2/2)、頸部67%(2/3)、肩部100%(3/3)、胸骨部100%(4/4)、腹部67%(2/3)。

患者評価では、改善69%、不変9%、増悪22%であった。合併症では1名に創傷治癒のわずかな遅延、照射に伴う軽度の副作用(色素沈着、色素脱出、発赤、嘔気)を認めたが、重大なものはなかった。

結論

この高い再発率は、従来報告されているよりもケロイドに対する放射線術後照射の効果は良くないのではないかと思われる。従って、切除術と放射線照射を組み合わせた治療は、難治性ケロイドの最後の治療に取っておくべきである。

コメント

主として黒人を対象とした難治症例を対象としたものであるが、あまりに高い再発率に愕然とした。この雑誌は形成外科領域では最もIFの高いものである。
従来ほとんど報告のないprospective studyであるためacceptされたのだろうが、多くの問題点がある。記載されている治療法は抜糸の時期がやや遅いこと、難治例に12Gyはやや少ないかもしれないこと以外にはほぼ標準的と思われるが、最初に読んだ印刷版では引用文献番号、照射線量(1200Gy!)、照射装置等の記載に誤りが多く、放射線腫瘍医がどこまで関与しているのか等を含め、治療内容と研究内容の質の面で疑問が生じた。
明らかな誤りについては編集部に修正を申し入れ、電子版では一部を残し訂正された。あるEditorのもとに留学している形成外科医師によると『Negative dataを出すのは勇気を伴うため、同じエビデンスレベルのPositive dataよりはacceptされやすい可能性がある。
しかし、僕だったら少なくともcGyとGyは見逃さなかったと思う。この論文を査読したのが僕じゃなくてよかった(笑)』とのことではあるが。そのほかの疑問点について、letter to editorを出し採択された。意味不明な結論の最後の1節を含め、この報告の結果が一人歩きして、診療の障害にならないことを願う。
本論文とは無関係であるが、大阪府ではケロイドの放射線照射が健康保険の査定の対象になっていると聞く。これはケロイドという難治性疾患に対する軽視とも思える。エビデンスのある報告に基づいた冷静な判断が望まれる。


(宮下 次廣)

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