No.120
膠原血管病患者での放射線療法
Radiotherapy in setting of collagen vascular disease
Wo J, Taghian A
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 69(5):1347-1353, 2007
はじめに
膠原血管病患者(collagen vascular disease: CVD)に対する放射線療法の影響については議論が続いているが、早期、晩期共に有害事象が増加するという確証はなく、さらにどのような病状の場合にリスクが高いと言い切れるデータもない。
初期の報告
1970年代から、急性粘膜反応の増強、皮下組織の線維化、口腔乾燥症、潰瘍を伴う皮膚壊死、脳神経麻痺などの報告があった。また、 1970年代に難治性のRAに対する、20Gy程度のTLI(全リンパ領域照射)の試みがなされた例で、肺臓炎などの晩期有害事象による死亡が報告された。
その後、乳癌術後照射による軟部組織壊死、瘻孔形成、肋骨骨折、肺線維症などが報告されている。1991年に4例の強皮症患者において、強度の急性皮膚反応ののちの、3例での致死的有害反応(小腸閉塞2例、誤嚥性肺炎1例)が報告され、これらを踏まえて、1992年にACRのガイドラインに「CVD患者の放射線耐容線量は低いので、乳房温存療法の適応にならない」との記載がなされた。
遡及的研究
症例数61例、38例、36例の3つの対照症例研究と1つの209例の遡及的な報告があるが、その他の大きな報告はない。これらからは、急性期、晩期有害事象の増強が有意差を持ってあると言い切れるデータはない。また、照射線量、部位、CVDの活動性、CVDの診断名による差も確かでない。しかし、腸管の壊死や閉塞、膀胱壊死、心膜炎などの致死的な晩期有害事象が多い傾向は報告されている。
これらは、CVD患者では、基底膜の障害が抗原を誘導し血管内皮細胞の障害が起こり、種々のサイトカインの誘導で障害が増強されるとの仮説で説明されている。最近のin vitro研究では、transforming 増殖因子 βとマクロファージ伝達線維芽細胞増殖因子の増加が認められ、この仮説を裏付けている。
結論
CVDと放射線療法の有害事象増強の関連はいまだ確定していない。強皮症患者ではリスクの増強があり、RAではリスクの増強はないとの報告はあるが、それすら確定ではない。
コメント
CVD合併患者に対する放射線療法については、日本でも急性期および晩期有害事象増強に関する注意が喚起され、乳癌診療ガイドラインでは、「乳房温存療法の適応にならない」としている。しかし、今回のred journalの巻頭でのreviewでさえも、データが少なく切れ味は悪い。
このreviewで学んだ事は、致死的な晩期有害事象の多さである。日常臨床上、CVD合併患者に放射線療法を行わなければならない事は少なくないと思われるが、特に予後の期待できる乳房温存療法の患者などでは、慎重な対応と長期の経過観察が必須であろう。
(唐澤 久美子)