JASTRO

公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

ホーム > JASTRO 日本放射線腫瘍学会(医療関係者向け) > 学会誌・刊行物 > Journal Club > 術前化学療法後に乳房温存療法を行う場合、腫瘍位置同定のための放射線不透過性クリップを設置すると局所制御が改善する

No.122
術前化学療法後に乳房温存療法を行う場合、腫瘍位置同定のための放射線不透過性クリップを設置すると局所制御が改善する

Placement of Radiopaque Clips for Tumor Localization in Patients Undergoing

Oh JL, Nguyen G, Whitman GJ, et al.
Cancer 110(11):2420-2427, 2007

目的

放射線不透過性クリップを設置して腫瘍をマークすることで、術前化学療法後の乳房温存療法の治療成績が改善するか検討する。

対象と方法

1990年1月から2005年9月の間に、ドキソルビシンを含む術前化学療法の後に乳房温存療法を行った転移のない乳癌患者410人について、レトロスペクティブに検討した。37人は原発腫瘍にクリップを設置できたか確認できなかったため除外した。術後乳房への放射線治療の線量中央値は 50Gy、ブーストとして断端陰性例では10Gy、断端陽性例では14Gyを追加した。

結果

373人を解析し、術前化学療法の前あるいは途中にクリップを設置し腫瘍をマークした145人と、マークしなかった228人の2群にわけた。臨床T分類、核型グレード、エストロゲン受容体の状態、最終的な断端状態、遺残腫瘍の程度の分布は2群で類似していた。49ヶ月の中央観察期間(範囲20-177ヶ月)で、治療した21人が局所再発した。5年局所制御率は、マークした群では98.6%、マークしなかった群では91.7%であった(P=0.02; log-rank test)。多変量解析では、マークしなかった群の局所再発の増加危険率は、マークした群に比べて3.69であった(P=0.083; 95%信頼域, 0.84-16.16)。

結論

術前化学療法後に乳房温存療法を行う乳癌患者において、放射線不透過性クリップを設置すると、病期や他の臨床病理所見と無関係に局所制御がよくなる。腫瘍をマークするクリップは、適切な集学的治療のために不可欠である。

コメント

この論文は2007年12月にTexas M. D. Anderson Cancer Centerから出された術前化学療法後の乳房温存療法に関する論文である。局所進行乳癌に対して術前化学療法を行うと乳房温存率が向上することを示した報告は多く、コンセンサスである。しかし、従来の乳房温存療法を進行例に適応拡大した症例のみを対象とした術後放射線治療に関する第3相比較試験での十分なエビデンスはない。小生の施設を含め、すでに多くの施設で、このような適応拡大した乳房温存療法が行われていると思うが、日本乳癌学会の「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン (3)放射線
療法 2005版」の「リサーチクエスチョン」の項目としても、術前化学療法による適応拡大に関しては取りあげられていない。ゆえにエビデンスの確立が求められている集学的治療法であると考える。

進行乳癌へ乳房温存療法を適応拡大した症例について、インフォームドコンセントの際の放射線治療の意義に関する情報は十分とはいえず、その一助とするため、今回の論文を選んだ。

今回、マークした群ではT3、T4を16.6%、stage IIIを20%、マークしなかった群ではT3、T4を28%、stage IIIを37.7%含んでいる。マークした群で断端近接、陽性となったのは11.1%、
乳房内再発は2/145、5年病側乳房腫瘍制御率は98.6%、全生存率は96.6%、マークしなかった群では、断端近接、陽性が15.4%となり、乳房内再発は16/228、5年病側乳房腫瘍制御率は91.7%、全生存率は84.7%という結果であり、きちんとした治療をすれば、適応拡大例を含めても、良好な治療成績を期待できることを示唆している。

この論文の目的は、クリップによるマークの重要性を検証するものであり、また、対象症例数がさほど多くなく、局所進行例のみが対象ではないこと、観察期間の長さなどに若干の限界はあるが、適応拡大時の乳房温存療法の成績についての貴重な報告のひとつである。

この論文におけるクリップによるマークの役割について、誤解しないでいただきたいのは、従来の乳房温存手術時に、ブースト照射の位置確認のためにおくクリップではなく、術前化学療法の前あるいは途中に、基本的に腫瘍内(手技の詳細については論文参照)に設置するもので、その主目的は、術前化学療法後に縮小した腫瘍を手術時に残存なく完全摘出するためのマーカーとして用いることである。著者らは、マーカー設置により局所制御率が向上することを示した初めての報告であるとコメントしている。

著者らの趣旨とは若干異なるが、この報告は、きちんと治療すれば、適応拡大例を含めても、良好な治療成績が期待できることを示唆しており今後、適応拡大症例においても、放射線治療により局所制御と生存率が改善し、従来の乳房切除と同等の成績となることを証明する十分なエビデンスがでてくることを望みます。


(黒田 昌宏)

top