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No.138
系統的レビュー:臨床的な限局性前立腺がんに対する各種治療の有効性と有害性の相対比較

Systematic Review : Comparative Effectiveness and Harms of Treatments for Clinically Localized Prostatic Cancer.

Wilt TJ, Shamliyan TA and Kane RL.
Annals of Internal Medicine, 148:435-448, 2008

目的

限局性前立腺癌に対する各種治療の有効性(利益)と有害性(不利益)を比較する。

データ源

MEDLINE (~2007年9月)、Cochrane Library(~2007 年の発行番号[issue]3まで)、Cochrane Review Group in Prostate Diseases and Urologic Mallignancies 登録(~2007年11月)。

研究の選択

限局性前立腺癌に対する治療を評価し、臨床的・生化学的転帰について、言語を問わず報告された無作為化対照試験(RCT)および英語で報告された観察研究。

データの抽出

2人の研究者が研究デザイン、患者背景、介入、評価項目、転帰に関する情報を抽出した。

データの統合

本研究の選択基準を満たすRCTが18件、観察研究が473件見つかった。わが国からの報告としては前立腺全摘術と術後内分泌補充療法に関するRCTをはじめ4つの研究が含まれている。

前立腺特異抗原(PSA)高値から検出された疾患を含まない対象者が大部分を占める1件のRCTにおいて、前立腺全摘術は慎重な経過観察(待機療法)と比べ、10年後の粗全死亡率(24% vs 30%;P = 0.04)ならびに前立腺癌による死亡率(10% vs 15%;P = 0.01)を低下させたと報告している。

前立腺摘除術の有効性は65歳未満の男性に限定されたが、Gleasonスコアや治療前PSA値との関連はみられなかった。

より高齢の患者を対象とした小規模の臨床試験(1件)において、前立腺全摘術群と待機療法群の間で全死亡率に有意な差がなかったと報告された(リスク差,0%;95%信頼区間[Cl],- 19-18%)。

別の高齢者を対象にした小規模な試験(1件)では、前立腺全摘術のほうが外照射療法に比べ5年後の再発率が低いことが示されている(14% vs 39%;リスク差,21%;P = 0.04)。

外照射療法のレジメン間では死亡率の低下に関して優劣が認められなかった。

初期治療として男性ホルモン遮断(除去)療法を評価している無作為化試験は1件も報告されていなかった。

前立腺全摘除術の補助療法として男性ホルモン遮断療法を実施しても、前立腺全摘単独に比べ、生化学的進行に関して改善効果は得られなかった(リスク差,0%;95% CI,- 7-7%)。

密封小線源永久挿入治療(小線源治療)、前立腺凍結療法、手術用ロボットを用いた前立腺全摘術、光量子照射療法や強度変調放射線療法(IMRT)について評価している無作為化試験は1件も見つからなかった。

同一治療同士あるいは異なる治療間で比較した有効性について、観察研究で報告されている推定値は範囲が広く重複がみられた。有害事象の定義と重症度も研究間でかなり差異がみられた。

Prostate Cancer Outcomes Studyでは、前立腺全摘術(35%)施行後に尿失禁(1日1回以上)の頻度が、放射線療法(12%)あるいは男性ホルモン遮断療法(11%)に比べ高かった。

便意切迫の頻度は、放射線療法(3%)および男性ホルモン遮断療法(3%)のほうが前立腺全摘術(1%)に比べ高かった。

勃起障害はいずれの治療でも高頻度に発生した(前立腺全摘術58%、放射線療法43%、男性ホルモン遮断療法86%)。

組織学的グレード、PSA値、腫傷ステージをもとに算出したリスクスコアの高値は、治療に関係なく、前立腺癌の進行あるいは再発のリスク上昇と関連していた。

結論

エビデンスに限界があるため、限局性前立腺癌に対する各種治療の有効性と有害性を比較評価するのは困難である。

限界

前立腺癌に対する初期治療間の有効性を比較している無作為化試験はわずか3件であった。最初PSA検査で腫瘍が見つかった前立腺癌の患者を登録している臨床試験はなかった。

全体としてはPSAテストが普及する以前の患者群に対する研究であったり、近年普及している3D-CRT、小線源量などに関する研究は不十分であるなどEBMの見地からはエビデンスの高い論文は少ない


(増永 慎一郎)

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