No.143
前立腺癌の放射線治療期間は予後に影響を与えるか?
Dose treatment duration affect outcome after radiotherapy for prostate cancer?
D'Ambrosio DJ, Li T, Horwitz EM, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys, 72(5):1402-1407, 2008
はじめに
頭頚部腫瘍では、治療期間が延長すると、放射線治療成績が悪くなることは報告されている。前立腺癌においては、1990年にMallinckrodt Institute of Radiologyから治療期間は予後に影響を与えないという報告が出されている。しかし、この報告では総線量の中央値が63Gyであり、現在治療されている線量より低くなっている。一方、同時期のUniversity of Floridaからは、治療期間が8週間を超えると局所再発が増えたという報告もある。近年の前立腺癌の治療線量は増加しており、著者らは、自らの施設の症例で検討を行った。
対象、方法
対象はFox Chase Cancer Center にて1989年から2004年までに照射した前立腺癌1796例、年齢の中央値は69歳(27-87歳)、低リスク群789例、中間リスク群798例、高リスク群209例である。放射線治療は3次元原体照射が1362例、IMRTが434例であった。
総線量の中央値は76Gy(65-82Gy),リスク分類別に低リスク群74Gy(65-82Gy),中間リスク群76Gy(66-82Gy),高リスク群76Gy(68-82Gy)であった。治療期間に関してはNTDR(a nontreatment day ratio)を定義した。これは総治療期間における照射しない日の割合で、たとえば週5回照射(土、日休み)で計40回照射、月曜から始まり、期間中祭日が無く治療が順調に行えた場合、8週目の金曜日で治療が終了するので、総治療期間は7日×7週間+5日間=54日間となり、その間の土日は7週間分で14日間であるので、NTDR=14/54×100%=25.9%となる。これが4日間延長した場合は総治療期間は8週間+4日間で60日間、照射できなかった日は土日が8回+4日間の休みで20日間となり、NTDR=20/60×100%=33.3%となる。
NTDRの中央値は30%(23-79%)であった。
結果
全体での10年PSA非再発率(PSA再発はnadir+2ng/mlと定義)はNTDR<33%群で68%、NTDR≧33%群で58%(p=0.002)、低リスク群ではNTDR<33%群で82%、NTDR≧33%群で57%(p=0.0019)であったが中間リスク群、高リスク群では有意差はでなかった。多変量解析では、低リスク群において、NTDR、T分類、治療開始前のPSA値がPSA非再発率に影響を与える因子と出たが、中間リスク群、高リスク群ではNTDRは有意は因子ではなかった。
結論
前立腺癌の低リスク群では、放射線治療期間の延長により、予後に悪影響を与える。
NTDR≧33%となるような休止は避けるべきである。(NTDR≧33%は、40回照射の場合、4日以上の休止)
コメント
放射線治療の効果と治療期間の関係を調べた論文はいろいろあるが、治療期間の延長は日数の延長で表現していることが多いと思われる。本論文は単純な日数ではなく、総治療期間における照射しなかった日数の割合をNTDRとして、比較検討している。そして、前立腺癌の低リスク群において、NTDR≧33%となると、予後に悪影響を与えるとしている。
中間リスク群ではNTDR≧33%群は若干再発率が高い数値が出たが有意差はなく、高リスク群では逆にNTDR≧33%群のほうが再発率が低くなっていた(有意差はなし)。その理由は不明であるが、前立腺癌でも治療期間の延長は予後に影響を与える可能性があるということであろう。ただ、NTDR≧33%というのは結構厳しい数字と思われる。週5回照射の40回照射で、4回以上休み、25回や30回では3回以上休み、20回では2回以上休めばNTDR≧33%となってしまう。年末年始やGWが間に入ると予後は悪くなる可能性があるということになる。本論文の結果をそのまま受け入れるかは、検討の余地はあると思うが、連休中の照射も考慮しなければならないのか、考えさせられる結果ではある。
(小川 芳弘)