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No.163
乳癌の微小転移・遊離腫瘍細胞と治療成績

Micrometastases or isolated tumor cells and the outcome of breast cancer.

de Boer M, van Deurzen CH, van Dijck JA,et al.

N Engl J Med 361: 653-63, 2009.

目的

乳癌において所属リンパ節への微小転移(pN1mi)・遊離腫瘍細胞 (ITC) と予後との相関を検討

対象

・オランダで登録された予後良好の浸潤性乳癌のうち 2006年以前にセンチネルリンパ節生検を受けた結果 pN1mi/ITC であった全例。

・別に、対照として pN0例を1000例無作為抽出(2000-2001年の手術例)。

(予後良好とは 腫瘍径 1cm 以下、または腫瘍径 3cm 以下かつgrade 1 or 2)

結果、以下の3群を比較検討。

1. pN0, 補助療法なし 856例

2. pN1mi/ITC+ , 補助療法なし 856例

3. pN1mi/ITC+ , 補助療法あり 995例

方法

Primary endpoint は5年無病生存(5Y-DFS)。経過観察は 5.1年(中央値)。

結果

5Y-DFS は上記の群1,2,3 において各 85.7%, 76.5%, 86.2%。

(群 1 vs 2, 群 2 vs 3 でいずれも p <0.001)

群2中でpN1mi 対 ITC+ の 5Y-DFS を比較: 各 75.9% vs 77.2% (p=0.77)

群3中でpN1mi 対 ITC+ の 5Y-DFS を比較: 各 87.9% vs 83.0% (p=0.09)

結論

術後補助療法がない場合、pN1mi/ITC+ の有無は生存率に影響する。

pN1mi/ITC+ がある場合、術後補助療法は生存率を向上させる。

コメント

遊離腫瘍細胞(ITC: pN0(i+)/pN0(mol+))および微小転移(micrometastasis: pN1mi)はUICC/AJCC 第6版 (2002) に初めて記載されたが、これをどう扱ってよいのかよくわからなかった。ITC は pN0 と分類すると明記されていたが、ならばpN1mi はpN1 として扱うのか。St Gallen コンセンサスミーティングの結果をみても釈然としない。予後への影響は要検討とされていたが今回第7版 (2009)ではついに pN1mi は pStage IBとして新設された病期となった。

この論文の結論だけ読んで、「N+ 症例が、N- 症例より予後が悪い、なんて当たり前だ」の一言で済ませてしまわないように、以下に 2000年から2009年にかけての(i.e. UICC/AJCC 6版から 7版にかけての、つまりこの論文での各コホートの選択時期の) 背景を順にまとめた。

1. 2000年ごろまでに、センチネルリンパ節生検が一般的になった。

2. その場合150μm以下の連続切片で観察し免疫染色も行うことから、それまで pN0とされていたものの中に 腫瘍細胞が含まれることがわかってきた。

3. その 0.2mm 未満のものを遊離腫瘍細胞 ITC, それ以上で 2.0mm 未満のものを微小転移 pN1mi と定義した。(2002年 UICC/AJCC)

4. しかしその境界値(0.2mm, 2.0mm)は独断的・任意(arbitrarily)に決めたのみであって、論理的根拠のある数字ではない。

5. つまり、pN0(i+) だから N0と、pN1mi だから N1 と考えていいのか不明。

6. 当初「pN1mi/ITC と治療成績とは有意な相関なし」との報告もあったのは以下の理由であろう。

・ pN1mi/ITC+ の症例は、それ以外の予後因子との連関がある。

 (= 術後補助療法されることが多い。)

・ pN0 と pN1mi/ITC との差は、術後補助療法にマスクされる程度の差

7. その後2009年までに予後への影響が検討され、pN1mi/ITC は確かに予後に影響しpN0 と pN1 の中間の予後とするのが標準になりつつある。

8. いよいよ国際ガイドラインを変更する時期だ。

この論文では、補助療法なしでは pN0 対 pN1mi/ITC+ の差は、5Y-DFS で 9% という巨大な差になっていることに驚く。 UICC第7版となり、ガイドライン上で ITC と
pN1mi とが'Thresholds for therapies' にどれほど寄与するか今後を待ちたい。

(近畿大学医学部奈良病院 岡嶋 馨)

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