No.171
視神経と視交叉に対する線量・体積効果
Radiation dose-volume effects of optic nerves and chiasm
Mayo C, Martel MK, Marks LB, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 76(3 Suppl): S28-35, 2010.
目的
目的:放射線治療による視力障害(RION: radiation-induced optic neuropathy)に関する線量・体積効果を定量的に検討
方法
RION に関する22の論文をレビュー
結果
1.通常分割照射
(1)総線量:Emami/Lymanの総括的論文では視神経・視交叉全体に対しTD5/5 = 50Gy,TD50/5=65Gy(体積効果のデータなし)であった。近年の報告でも60Gy以上で急速にRIONの発症頻度が上昇。
・Dmax<59GyでRION発症なし。(70歳未満) (Parsons)
・RIONの発症のない患者:最大線量 (Dmax) の平均は53.7Gy(視神経) および 56.8Gy(視交叉)
RIONを発症した患者:Dmax>=64GyまたはD25>60Gy(Martel)
・56Gy未満ではRIONなし、1回線量2.5Gy以下なら60Gy未満で5%未満の発症(Jiang)
・下垂体腺腫では耐用線量は少ない(低い報告では46Gy)。
(2)体積効果: その存在は強く示唆されるが定量的データは少ない。
・Dmaxよりも平均線量(Dmean)が良い指標:体積効果の存在を示唆(Martel)
・視神経の5-30%を50-60Gy以下にすればRIONを減少できる。(Bhandare、他)
(3)分割線量:明らかにRIONの頻度に影響
・総線量60-70Gyの場合、分割線量1.9Gy以上vs未満でRIONの発症50%vs11%(Parsons)
(4)陽子線の場合:光子とほぼ同様
・しきい線量は55-60CGE(Cobalt Gray Eqyuvalent) (Wenkel、他)
2. 1回照射/SRS(Dmax と Dmean を明確に区別する必要がある)
・視交叉へのDmean 10Gyの場合4/215例でRION発症(Stafford)
・下垂体へのガンマナイフ62例でRION発症なし:視神経・視交叉のDmaxは中央値 9.5±1.7Gy(Pollak)
・RIONの危険は<10Gy:10-15Gy:15Gy<において0%:27%:78% (Leber)
3. 影響する因子
年齢が高いほどリスクが高い。以下はエビデンスが少ない:化学療法、糖尿、高血圧、前回照射との間隔
4. 数学的モデル
・Lyman/Kutcher/BurmanのNTCP(TD50は65Gy:しかしこれを70Gy以上とする報告も多い。)
・LQ model(α/βはとても小さい:1.6、あるいは0以下)
・分割回数や全治療期間を考慮した‘Optic Ret’’Neuret’
などのモデルがあるが、それぞれに乖離がある。
5. 推奨される線量(結論)
通常分割ではDmax55Gy未満ではRIONは少ない。55-60GyでRIONは3-7%。
SRSなどの1回照射の場合、Dmax10Gy以下ならRIONのリスクは少ない。
コメント
近年、照射範囲は狭い方向へ、1回線量は多い方向へ、線量勾配は急峻な分布へと急速に変化してきている。「脊髄には40-44Gyまで」などと思っていれば良かった時代が過ぎ去って、合併症に関するデータに常に留意する必要がある。 線量の考察も進化してきたとはいえ、視神経障害に例えばLQモデルをあてはめると「α/β」は小さいどころか「負」になるとのこと。「α/β」は多くの仮定に基づいた近似式の係数に過ぎないことを再認識するべきだと思う。
PMID: 20171514
evidence level:II
(近畿大学医学部奈良病院・岡嶋 馨)