No.223
高線量再照射における腕神経叢の耐容線量
Tolerance of the brachial plexus to high-dose reirradiation.
Chen AM, Yoshizaki T, Verez MA et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017 May 1;98(1):83-90.
doi:10.1016/j.ijrobp.2017.01.244. Epub 2017 Feb 7.
はじめに
再照射における腕神経叢の耐容線量はよく分かっていないにも関わらず、実臨床ではしばしば古典的な耐容線量を超えることがある。また脊髄のように時間経過による修復機構があるのかどうかも分かっていない。本論文は再発頭頸部癌に対して再照射を受けた実際の患者データを用いて、腕神経叢の耐容線量を調べた報告である。
方法
再発頭頸部癌で腕神経叢に再照射を受けていた43例を抽出し、放射線性ニューロパチーを検出する質問票と、deformable registrationを用いた線量合算により解析した。再照射時にすでに放射線性ニューロパチーの症状を認めていた症例は解析から除外した。初回照射の総線量は中央値66 Gy。再照射は6例がSRT(35-40 Gy/5Fr)、37例がIMRT(中央値66 Gy、2 Gy/Fr)であった。初回照射から再照射までのインターバルは中央値24か月(range, 3-144か月)であった。
結果
12例(28%)に放射線性ニューロパチーの症状を認めた。症状発現までの期間は中央値で再照射後7か月(range, 2-16か月)であり、症状は痛み(54%)、しびれ(31%)、脱力や巧緻機能障害(15%)であった。腕神経叢のDmaxは中央値95 Gy、Dmeanは中央値63.8 Gyであった。1年の無放射線性ニューロパチー率はDmax>95 Gy群で67%、Dmax<95 Gy群で86%(p=0.05)であり、再照射が初回照射から2年以内の群で66%、2年以上の群で87%(p=0.06)であった。
結論
Emamiらによる古典的な腕神経叢の耐容線量を超えていたにも関わらず、実際に観察された放射線性ニューロパチーは予想よりも少なかった。これは腕神経叢にも脊髄と同様に修復機構が存在することや、対象となったpopulation(再発頭頸部癌患者)が潜在的に予後が短いことが影響していると考えられる。腕神経叢の放射線性ニューロパチーには時間-線量効果が存在する。
コメント
著者らは腕神経叢のDmax(閾値95 Gy)と初回照射から再照射までの期間(閾値2年)により、放射線性ニューロパチー発生率がhigh risk、intermediate risk、low riskの3群に分けられると述べており、実臨床でも頭頸部癌や肺尖部癌などの再照射時には参考になるデータと考えられる。放射線性ニューロパチーの症状の評価やdeformable registrationの不確かさなどlimitationは多いものの、実際の患者データを用いて追跡調査していることは評価できるだろう。実臨床では患者の予後が短いと予想される場合には腕神経叢を含めたOARの晩期有害事象のリスクよりも再照射による局所制御・症状改善が優先される場合も少なからずある。近年増加する再照射時には十分なinformed consentが求められる。
Evidence Level 2b
PMID 28587056
(国立がん研究センター中央病院・高川 佳明、伊藤 芳紀)