No.175
転移性腫瘍による脊髄圧迫に対する手術+放射線治療と放射線単独治療のマッチドペア分析
Matched Pair Analysis Comparing Surgery Followed By Radiotherapy and Radiotherapy Alone for Metastatic Spinal Cord Compression
Rades D, Huttenlocher S, Dunst J, et al.
J Clin Oncol 2010:28:3597-3604.
背景と目的
転移性腫瘍による脊髄圧迫(MSCC)の適切な治療方法については議論がある.減圧術と放射線治療の併用療法が放射線治療単独よりも優れていることが報告されているが,小規模な比較試験の結果に過ぎない.さらなる比較試験によって手術の役割をより明確に得るのかどうかを検討した.
方法
手術とそれに続いて放射線治療された122例(手術併用群)と放射線単独で治療された2296例(RT単独群)を対象とした.
両群から11の予後因子(年齢,性別,全身状態,原発巣の種類,病変のおよぶ脊椎数,放射線治療時の他の骨転移,放射線治療時の内臓転移,診断から当該病変出現までの期間,放射線治療前の歩行状態,放射線治療前の運動障害の日数,放射線治療の線量)の内,少なくとも10因子以上が符合する手術併用群108例とRT単独群216例について,治療後の運動能,歩行状態,歩行の再会得,局所制御,生存について比較した.
また,サブグループ解析として適切な手術(減圧術+椎体固定)群,椎弓切除のみの群,適切な手術を受けた固形腫瘍群,椎弓切除のみを受けた固形腫瘍群について検討した.
結果
運動機能の改善は手術併用群27%,RT単独群26%であった(N.S.).
治療後の歩行率は手術併用群69%,RT単独群68%であった(N.S.).歩行不能例のうち,手術併用群30%とRT単独群26%で治療後に歩行再会得した(N.S.).
1年時の局所制御は手術併用群90%,RT単独群91%であった(N.S.).
1年時の全生存は手術併用群47%,RT単独群40%であった(N.S.).
サブグループ解析で両群間に有意差は示されなかった.
手術に関連した合併症は11%に認められた.
考察
PatchellらがMSCCに対して減圧術+放射線治療(併用群)がRT単独に比較して,予後を改善することを報告した(Lancet 2005;366:643-8).
しかし,Patchell試験の問題点として,症例の集積に10年以上を要しており,MSCC症例のごく一部を選択している可能性があること,重要な予後因子での層別化がされていないこと(今回の11因子のうちの4因子のみ),両群合わせて101例とサンプルサイズが小さいこと,RT単独群の成績が悪すぎること,などが挙げられる.
本研究では手術併用群とRT単独群で予後に差は認められなかった.本研究も遡及的研究であり解釈には注意を要するが,両者の比較試験の実施が正当化されるだろう.したがって,改めてランダム化比較試験を計画する.
コメント
Patchell試験は無作為割付比較試験(RCT)であり,そのエビデンスレベルは高い.evidence-based medicine全盛の時代にあって,RCTの結果となるとついつい盲信してしまいがちである.特にPatchell試験の結果は理にかなったものあり感覚的にも受け入れやすい.
今回の検討はRCTの結果とはいえ常に批判的な目で確認する必要があることを改めて感じさせられた.筆者らの批判的精神は素晴しいと思う.
改めてRCTを計画するということであり,結果を楽しみにしたい.
Evidence level IIb
PMID: 20606090
(埼玉医科大学国際医療センター 江原 威)