No.176
新規に神経膠芽腫と診断された患者に対するテモゾロミド使用/非使用におけるチピファルニブと照射併用療法に関する第一相試験
A Phase I Trial of Tipifarnib with Radiation Therapy, with and without Temozolomide, for Patients with Newly Diagnosed Glioblastoma
Nghiemphu PL, Wen PY, Lamborn KR, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 81(5) : 1422-7, 2011.
目的
新規に神経膠芽腫と診断された患者に対して、通常の放射線療法と併用可能なチピファルニブの MTD(maximum tolerated dose)を確定する。
対象及び方法
患者を以下の3群に分けた。
グループA:コントロール群(RTのみ)
?????チピファルニブ(EIAED)(-)、
?????テモゾロミド:(TMZ)、現在 GBMに対して使用されている薬剤(-))
グループB:RT(+)、EIAED(+),TMZ(-)
グループC:RT(+)、EIAED(+)、TMZ(+)
生検又は(診断目的の)手術後、照射開始前5-9日からEIAEDを投与した。(1日2錠、4週間周期。)有害事象の出現又は病変の進行をもってDLT(Dose Limiting Toxicity)とした。
結果
51名の患者が参加した。(グループA:10名、グループB:20名、グループC:21名。)
グループA,CからEIAEDのMTDは300mg×2/日と判明した。DLTは顔面紅潮と全身倦怠感だった。グループBもMTDは300mg×2/日で予想の1/2量だった。
グループBのDLTは顔面紅潮と鞍内出血であった。
グループC中評価可能だった21名中13名が1年以上生存した。
考察
グループCからEIAEDのMTDが300mg×2/日、と判明した。グループBでのMTDは600mg/日と予測されたが、予想に反して300mg/日 であった。
これは照射との併用によりEIAEDの効果(有害事象)が増強される為と推測される。
まとめ
チピファルニブは300mg×2/日、4週間周期のスケジュールで従来の放射線・放射線化学療法との併用に耐え得る事が判明した。第Ⅱ相試験(同様のスケジュールでRT + EIAED + TMZ群とRT + TMZ群の有用性比較)の実施が望まれる。
コメント
ご存知の様にGBMは難治性の脳腫瘍として知られ、この疾患にどの様に対処するかは脳外科医、放射線腫瘍医、腫瘍内科医にとって極めて重要なテーマとなっております。又、現在化学療法の分野では「分子標的薬」が全盛を極めています。ご参照までに用語解説のURLを以下に示します。
チピファルニブ:
http://www.mikanbox.com/md-lab/column/imashuku/Column5/column5_8.html
テモゾロミド :
http://www.gsic.jp/medicine/mc_01/temodar/
Phase Ⅰ study:
http://www.chikennavi.net/word/phase1.htm
昨年のJASTRO教育講演でもお話しましたが、分子標的薬は決して「夢の新薬」ではありません。病変が進行しなかったり、生存期間が延長したりすれば「効果あり」と判定される、言わば「守り」の姿勢の薬です。現在なぜ製薬会社が「分子標的薬」の新規開発・研究・販売に躍起になるかと言うと、薬価が圧倒的に高いからです。(これも昨年の講演でお話ししました。)その上、メカニズムが判ってさえいれば(効果は別として)薬剤を作り出すのは比較的簡単です。
問題点としては主に3つ。1)従来施行されていた化学放射線療法と比較した上での有用性を示す報告が未だ無い事。2)従来の抗癌剤とは異なるタイプの有害事象が出現すること。3)前述の様に、薬価が極めて高価なこと。等です。3)は行政上の問題ですから我々の感知するところはありませんが、問題はやはり1)ですね。
この論文に於いても(治療効果を云々する訳では無く、MTDを確定する為のPhaseⅠですから当然と言えば当然ですが)従来の治療法(手術 + RT + TMZ)に対する優位性は示されておりません。ただ、単独での投与とTMZとの併用でMTDが変化しなかった事で、チピファルニブの放射線高感受性の可能性をあざとく示唆してはいます。
従来の抗癌剤とは評価方法が異なるのですから比較すること自体がもしかしたらナンセンスなのかもしれません。又お気づきの様に、放射線により分子標的薬の効果が増強される、という表現が面白いですね。放射線腫瘍医とは発想が異なります。
かなり多施設に亘る治験ですが、以前治験が主体の某研究施設で腫瘍内科医をしていた時の事を思い出しました。1980年代当時は患者のICを得ずに勝手にphase Ⅰを行っていました。今から考えると恐ろしい事をしていた印象があります。(今回の論文にも言える事ですが、用語解説の項からもお判りのように、実際の患者に投与するのは厳密な意味での phase Ⅰstudyではありません。)
ただでさえ辛そうにしている患者に効くかどうかも明らかでない抗癌剤をいきなり大量に平気で投与しておりました。今回の論文の様にGBMであれば生命予後が短いので「藁にもすがる。」気持ちで治験に応じる患者も多かったのでしょうが、新規に開発される薬剤にはせめて「藁」以上の効果を期待したい、と祈念する今日この頃です。
PMID: 20934264
Evidence level : IIb
(国際医療福祉大学・三田病院 北原 規)