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No.181
67歳以上の女性乳癌患者に対する術後の小線源治療は、全乳房照射と比較して、乳房温存率が低く合併症も多い。

Association between treatment with brachytherapy vs whole-breast irradiation and subsequent mastectomy, complications, and survival among older women with invasive breast cancer.

Smith GL, Xu Y, Buchholz TA, et al.
JAMA 2012; 307: 1827-1837

背景と目的

 近年、乳房温存術後の放射線治療として小線源治療の頻度が増加している。
しかしながら、その有効性を標準治療である全乳房照射と比較したエビデンスの高いデータに乏しく、長期のランダム化比較試験のデータについては、今後しばらく発表される見込みは無い。
そこで、両放射線治療法について比較検討を行う必要があると考えた。

研究デザイン

 アメリカのメディケア受給者中、2003年から2007年の間に乳癌と診断された67歳以上の女性患者92735人(中央値74.8歳)に対する後ろ向きコホート研究を行った。
主な調査項目は、放射線治療後の乳房切除実施率(乳房温存療法の失敗を示唆する指標)、生存率、手術や放射線治療に関連する合併症とした。

結果

 治療後5年の乳房切除実施率は、小線源群3.95%、全乳房照射群2.18%と多変量解析で有意差を持って小線源群が不良であった。
腋窩リンパ節転移の有無で解析した結果も、陽性群で8.25% vs 2.53%、陰性群で3.87% vs 2.09%と小線源群で不良であった。

 放射線治療に関連する合併症については、脂肪壊死(8.26% vs 4.05%),乳房痛(14.55% vs 11.92%)と有意差を持って小線源群で高く、放射線肺臓炎については0.12% vs 0.72%と全乳房照射群で高く、肋骨骨折については4.53% vs 3.62%と有意差は認められなかった。

 感染性及び非感染性合併症の頻度は、術後1か月目から18か月目までを通して、小線源群で有意に高かった。
5年全生存率は、小線源治療群87.66%、全乳房照射群87.04%と有意差は認められなかった。

結論

今回の調査では、乳房温存術後の小線源治療は、全乳房照射より治療後乳房切除のリスクが約2倍高く、手術および放射線治療に関連する合併症の頻度も高い傾向にあった。

コメント

 メディケア(65歳になると加入するアメリカの公的医療制度)の全データベースから抽出した大規模患者集団を対象にし、乳癌術後の放射線治療として標準的な全乳房照射と、最近増加している小線源治療の治療成績や合併症等を比較した論文です。
ランダム化比較試験ではなく、追跡期間が短い(平均値3.03年)などの問題点はありますが、最新のデータとして参考になると考え紹介させていただきました。

乳房温存術後の小線源治療は、アメリカにおいて年々増加傾向にあり2007年には12.52%となり更に増加傾向のようです。
しかし、本研究結果からは、どの施設でもほぼ同じ方法で行われ、施設間の差異が少ない標準的な全乳房照射と比較すると、手技が確立しておらず、術者の熟練度が治療成績や合併症の頻度に影響する小線源治療の問題点が明らかになっています。
RTOG/NSABPによるランダム化比較試験の結果が出るまでは、乳房温存術後の小線源治療は引き続き臨床試験として施行されるべきであると筆者は述べています。

 最後に、日本の現状について記載します。
乳癌診療ガイドライン2011によると、乳癌術後の加速乳房照射(APBI)は、エビデンスがまだ十分ではなく基本的には勧められない。
実践する際は臨床試験の枠組みで実施されるべきである(推奨グレードC2)と記載されています。
本年5月に行われた第14回小線源治療部会では、組織内照射によるAPBIの多施設共同臨床試験で、手技の再現性を検討した発表がありました。
結果は46例中43例で手技に再現性ありという結果でした。
緻密な作業が得意な日本人で、本治療法に興味を持ち臨床試験に参加された施設のデータなので当然の結果と思います。

 乳癌の術後照射が益々増加している現状では、たとえ治療期間が一週間に短縮されたとしても、手技にかかる時間や手技に習熟するまでの症例数を考えると、組織内照射によるAPBIは限られた施設のみで行われる治療法になる可能性が高いように感じます。


(北海道がんセンター 沖本 智昭)

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