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No.204
切除可能 I期非小細胞肺癌に対する定位放射線治療と肺葉切除術の無作為化比較試験2件の統合解析

Stereotactic ablative radiotherapy versus lobectomy for operable stage I non-small-cell lung cancer: a pooled analysis of two randomised trials

Chang JY, Senan S, Paul MA, et al.
Lancet Oncol 2015; 16: 630-37

背景

I期 の非小細胞肺癌に対する標準治療は, 肺葉切除および縦隔リンパ節のサンプリングもしくは郭清である.一方, 定位放射線治療 (以下, 定位照射)は同対象に対して有効性が期待される治療法である.この両者を比較した2件の無作為化比較試験 (STARSとROSEL. いずれも集積不良で早期中止)を統合解析した.

方法

対象はT1-2a(< 4cm), N0M0, 外科的切除可能な非小細胞肺癌.定位照射群, 手術群に1:1の比率で無作為化割付.定位照射群 31例,手術群 27例をITT 解析した.主要評価項目はOS とした.

STARS trial の処方線量は, 末梢病変に対し54 Gy/3 fr, 中枢性病変に対し50Gy/4 fr(PTV に対してD100%≧処方線量).ROSEL trial では, 末梢病変のみを対象とし60Gy/5 fr もしくは 54 Gy/3 fr(PTV に対してD99%≧90%処方線量)であった.

結果

観察期間の中央値は, 定位照射群 40.2か月(23.0-47.3), 手術群 35.4か月(18.9-40.7)であった.3年 OSは定位照射群 95%(95%CI 85-100), 手術群 79%(95%CI 64-97), p=0.037, HR 0.14, 95%CI0.017-1.190. 3年の局所再発率, 領域内再発率, 遠隔転移率はいずれも群間差を認めなかった.3年無再発生存率は定位照射群 86%(95%CI 74-100), 手術群 80%(65-97%), HR 0.69, 95%CI 0.21-2.29, p=0.54.

定位照射群においてグレード3の有害事象を3例(10%)認めた.(呼吸困難/咳嗽 2例, 胸壁疼痛 3例, 倦怠感/肋骨骨折 1例). グレード4以上の有害事象は認めなかった.手術群では, 術後合併症による死亡 1例(4%), グレード3/4の有害事象が12例(44%)で認められた.(呼吸困難 4例, 肺感染症 2例, 胸壁疼痛 4例).

考察

文献的には, 低侵襲手術でさえ術後90日以内の死亡率 2~5.4%であるのに対し, 定位照射の累積治療関連死亡率は0.7%である.局所制御率が高く重篤な有害事象も少ないことから,高齢あるいは重い合併基礎疾患を持つ患者に対して定位照射は手術に代わる選択肢として非侵襲的な標準治療となった.

定位照射では, 治療されない同一肺葉内, 肺門部・縦隔リンパ節再発が懸念されている.また, 定位照射では臨床的病期診断に基づいて治療が行われる一方で,手術では縦隔リンパ節転移の病理学的検索が行われるため, II期以上の場合には術後補助療法が可能となる.

定位照射のレビューや手術の大規模な遡及的データでは, 両者の3年ないし5年生存率は類似している.しかし,定位照射と手術が同等かどうか明確な答えを得るためには大規模無作為化比較試験が必要である.今回の解析結果から, 切除可能 I期 非小細胞肺癌に対して,定位照射は手術と比較し治療忍容性が高く, 生存率も良好かもしれない.ただし, サンプルサイズが小さく,経過観察も短いため解釈には注意が必要である.少なくとも両者の間に*equipoiseが成立することを強く示唆しており,大規模無作為化比較試験による検証は正当かつ必要であるとともに, 定位照射を治療選択肢の一つと考えるべきである.

コメント

本試験は, 手術可能 I 期非小細胞肺癌に対して, 定位照射と手術を比較した二つの無作為化比較試験を統合して解析した初めての報告である.

Grade 4 以上の有害事象を認めず, 3年生存率は定位照射群で有意な延長が認められた.しかしながらあくまでも探索的解析であり,サンプルサイズが小さく, 経過観察も短いなど, その限界には注意が必要である.論文中のみならず, 論説(Lancet Oncol 2015; 16:597-8)でも "time for evidence" と題してequipoiseの成立について触れ, 無作為化比較試験の必要性が強調されており,現在複数計画されている大規模無作為化比較試験の結果が待たれる.

*equipoise...専門家集団の間で, 比較する治療法のどちらがよいかが真に不確実であること.(N Engl J Med 1987; 317:141-5.)この場合に, 無作為化比較試験の設定が倫理的に許容される.(がん・感染症センター都立駒込 伊藤慶・二瓶圭二・唐澤克之、越谷市立病院 石倉聡)

Evidence level 1b
PMID: 25981812

(がん・感染症センター都立駒込 伊藤 慶・二瓶 圭二・唐澤 克之 越谷市立病院 石倉 聡)

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