No.234
大唾液腺癌に対する重粒子線治療の多施設後ろ向き研究
A retrospective multicenter study of carbon-ion radiotherapy for major salivary gland carcinomas : Subanalysis of J-CROS 1402 HN
Hayashi K et al.
Cancer science 2018 Mar Doi: 10.1111/cas.13558
背景
唾液腺癌に対しては手術が標準的に施行される。手術適応がない場合、根治照射が考慮されるが、photonの局所制御率は不良である。RTOGとMRCで施行されたphotonと速中性子線を比較する第Ⅲ相試験では、速中性子線による局所制御率は良好であったが重篤な有害事象が見られた。この結果から現在は切除不能例ではphotonによる治療が標準とされている。一方、唾液腺癌に対する重粒子線治療については既に良好な結果が報告されている。
本研究ではJ-CROS 1402 HNの多施設データをもとに、大唾液腺癌に対する重粒子線治療の治療成績について検討した。
方法
2003年11月から2014年12月に日本の4施設で大唾液腺癌に対して重粒子線治療を施行した69人を対象とし、有効性と安全性について検討した。対象患者選択基準は1)病理学的診断がついている、2)骨軟部腫瘍は除外、3)N0もしくはN1M0、4)手術不能もしくは手術拒否、5)PS 0-2とした。処方線量は、64 Gy(RBE)/16 Fr(36人、52%)、57.6 Gy(RBE)/16 Fr(16人、23%)、65 Gy(RBE)/26 Fr(8人、12%)であった。
結果
経過観察期間中央値は32.7ヶ月。初発が52人(75%)、再発症例が17人(25%)であった。局所制御率(LC)は3年で81%、5年で74%、全生存率(OS)は3年で94%、5年で82%、無病生存率(PFS)は3年で51%、5年で51%であった。急性期有害事象はgrade3の粘膜炎と皮膚炎がそれぞれ7人(10%)にみられた。grade4以上の急性期有害事象は認めなかった。晩期有害事象は、grade3の嚥下障害、脳膿瘍を1人(1%)、grade2の顔面神経障害を4人(6%)、舌下神経障害を2人(3%)、外転神経障害を1人(1%)に認めた。
多変量解析ではBEDがLCの、性別と臨床的T分類がOSの予後因子であった。BED =89.6 Gy(RBE)、BED<89.6 Gy(RBE)では3年LCはそれぞれ 96%、61%であった。3年OSは女性で100%、男性で87%であった。T1-3、T4での3年OSはそれぞれ97%、90%であった。
結論
大唾液腺癌に対する重粒子線治療は有効で、有害事象も許容範囲内と考えられる。
コメント
本研究は大唾液腺癌に対する重粒子線治療の有効性と安全性を検討した多施設後向き研究である。重粒子線治療により過去の速中性子線と遜色のない良好な局所制御率、全生存割合が示された。一方有害事象に関しては、速中性子線とは異なり十分に認容されるものであった。良好な線量集中性と高い生物効果を併せ持つ重粒子線治療の臨床的有用性を示しており、これまでの単施設研究で示された有効性と安全性が多施設の検討でも裏付けられている。
通常、放射線治療では唾液腺癌を根治するという概念は乏しく、今後の新たな放射線治療の一分野を切り開く上で重要な論文と思われる。施設数は限られるものの既に保険適用となっており、その有効性は広く認知されるべきと考える。その他、腺様嚢胞癌や悪性黒色腫などX線治療で根治が難しいと考えられる希少癌についても下記のように論文化されており御一読されたい。
腺様嚢胞癌:Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2018 Mar 1;100(3):639-646.
メラノーマ:Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017 Apr 1;97(5):1054-1060.
腺癌:Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017 Oct 1;99(2):442-449.
粘表皮癌:Cancer Sci. 2017 Jul;108(7):1447-1451.
嗅神経芽細胞腫:Anticancer Res. 2018 Mar;38(3):1665-1670.
Evidence Level 3
PMID: 29493851
(九州国際重粒子線がん治療センター 大嶋 かおり、塩山 善之)