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No. 233
遠隔転移を有する頭頸部扁平上皮癌に対する局所根治治療

Combined high-intensity local treatment and systemic therapy in metastatic head and neck squamous cell carcinoma: An analysis of the National Cancer Data Base.

Zumsteg ZS. Luu M. Yoshida EJ et al.
Cancer. 2017 Dec 1;123(23):4583-4593.
doi: 10.1002/cncr.30933. Epub 2017 Aug 17.

背景

特定の癌腫によっては、遠隔転移のある癌患者に対して原発巣への根治治療を行うことで、生命予後が改善するというエビデンスが増えている。NCCNガイドラインでも遠隔転移を有する頭頸部扁平上皮癌に対して局所治療を推奨はしているが、裏付けるエビデンスは少ない。今回は米国のNational Cancer Date Base(NCDB)に登録された患者データをもとに、全身療法のみと局所への根治治療・非根治治療を行った患者の全生存(OS)を比較した。

方法

 2004年から2012年の間に診断されNCDBに登録された、転移を有する頭頸部扁平上皮癌に対して全身療法が行われた患者を対象とし、局所に対して根治治療を行ことがOSを改善するか否か解析した。
根治治療とは①総線量60Gy以上の放射線治療、②原発巣への根治的手術、(咽頭摘出術、喉頭(亜)全摘術、舌の部分切除・半切除・全摘術など)③その両者とした。非根治治療とは60Gy未満の放射線治療や縮小手術(腫瘍切除、クライオサージェリー、レーザー焼灼術など)とした。

結果

 3269例が対象とされ、経過観察期間の中央値は51.5か月であった。根治治療を受けたのが1495例(45.7%)、非根治治療を受けたのが650例(19.9%)、全身治療のみが1124例(34.4%)であった。2年のOSでは根治治療群、非根治治療群、全身療法のみ群で、それぞれ40.5%、19.8%、20.6%であり、根治治療を行った群がその他の群よりも有意にOSが延長を認めた一方、非根治治療と全身療法のみとでは差がつかなかった。
根治治療を行う際の効果は時間に依存しており、診断後6か月以内に治療を行ったほうが、6か月以降に治療を行うよりも成績が良かった。(adjusted hazard ratio 0.255 vs 0.622)
転移部位や個数に関わらず、根治治療を行う方がOSの延長が見られた。

結論

転移を有する頭頸部扁平上皮癌に対しても根治的局所治療を行うことで予後の改善が期待できる。

コメント

 転移を有する頭頸部癌への局所根治治療の有効性を後ろ向きに検証した論文。
近年、標的療法や免疫チェックポイント阻害薬など全身療法の発展に伴い、少数の転移があっても局所(あるいは転移巣も含めて)の根治治療を行うメリットのある場面は増えていくと思われる。今回の論文でも局所治療としては放射線治療が選択されているケースが多く、放射線治療の適応拡大の面でも興味深い。
延命効果の機序としては、呼吸や嚥下などの生命維持に必要な機能を維持するというほかに、原発腫瘍からのself-seedingの阻害、抗腫瘍免疫の増感効果、腫瘍によるサイトカインや増殖因子の抑制などが挙げられる。
今回の結果は後ろ向き解析でありバイアスが避けられず、また局所治療が有効な患者群も明らかではない。また今回の研究ではQOLまでは評価されておらず、転移を有する患者に対してどの程度の有害事象が許容されるかも議論を要する。どのような患者を適応とするか、治療範囲をどのように設定するか、現段階では個々の症例ごとに慎重に検討していく必要がある。

Evidence level 3
PMID: 28817183

(東京医療センター 澤田 将史 萬 篤憲)

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