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No. 232
放射線治療実施大規模コンソーシアムにおける乳房への放射線治療に伴う心臓の被曝線量に関する最近の動向と展望

Recent Time Trends and Predictors of Heart dose from Breast Radiation Therapy in a Large Quality Consortium of Radiation Oncology Practices

Pierce LJ, Feng M, Griffith KA, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2017 Dec 1;99(5):1154-1161.
DOI: 10.1016/j.ijrobp.2017.07.022.

はじめに

現在合衆国においては、乳癌に対して実施されている通常の放射線治療に伴う心臓の被曝線量に関するデータおよび各照射方法による心臓への被爆に関する連続的な評価が持つ潜在的な効果についてのデータがほとんどない。

対象と方法

2012年から2015年の間に全州的なコンソーシアムに参加した20施設において全乳房照射を受けた乳癌患者4688名が登録された。2012年からコンソーシアム内で心臓への被曝線量を制限することの重要性が強調され、2014年から心臓の平均被曝線量が各施設によって報告された。心臓の平均被曝線量が、通常照射と加速照射の両方において、照射方法(強度変調放射線治療あるいは3次元原体照射)、深吸気による呼吸停止を用いたか否か、患者体位(背臥位あるいは腹臥位)、所属リンパ節領域照射の有無、ブースト照射の有無を共変量として回帰モデルを用いて評価された。

結果

通常照射を受けた左側乳癌患者の心臓の平均被曝線量の中央値は、2012年が2.19Gy、2015年が1.65Gyであった(p<.001)。通常照射において心臓の平均被曝線量を有意に増加させた要因は、22cmをこえる照射野(1cmあたり1.5%)、鎖骨上、鎖骨下リンパ節領域への照射(17.1%)、内胸動脈領域リンパ節への照射(40.7%)、ブースト照射の実施(20.9%)、2015年より以前の治療(7.7%)、IMRTによる照射(20.8%)であった。加速照射を受けた左側乳癌患者の心臓の平均被曝線量の中央値は、2012年が1.70Gy、2015年が1.22Gyであった(p<.001)。加速照射において心臓の平均被曝線量を有意に増加させた要因は、照射野(1cmあたり1.7%)、ブースト照射の実施(20.0%)、2015年より以前の治療(8.5%)、IMRTによる照射(19.2%)であった。通常照射、加速照射のいずれにおいても心臓の平均被曝線量を有意に減少させた要因は、深吸気による呼吸停止と腹臥位での照射であった。

結語

左側乳癌患者の心臓の平均被曝線量は、放射線治療領域における心臓への被曝線量低減に対する関心の増加と一致して、ここ4年間で減少している。これらのデータは、心臓への被曝線量を体系的に監視することの有用性を示唆しているものと思われる。

コメント

乳癌治療における乳房への照射(特に左乳房への照射)と心臓への被曝の関連と言う、古くて新しい問題に関する論文です。所属リンパ節領域への照射、ブースト照射、呼吸停止の状態や照射体位が大きく影響すると言う何となく理解はしていた要因を客観的に解析したところが一つの要点でしょうか。(ただし様々な理由からすぐにそれらを実践とは行かないと思いますが、) また最近流行のIMRTについては、少なくとも現時点では (やはり?) あまりお勧めできない照射法と考えるべきということになるのでしょうか。

Evidence level: level 2a
PMID: 28927756

(高知医療センター放射線療法科 西岡 明人)

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