No. 227
術後再発前立腺癌に対する放射線療法における抗アンドロゲン療法併用の比較試験
Radiation with or without Antiandrogen Therapy in Recurrent Prostate Cancer
W.U. Shipley et al.
N Engl J Med. 2017 Feb 2;376(5):417-428.
doi: 10.1056/NEJMoa1607529.
背景
前立腺癌全摘手術後の生化学的再発に対するサルベージ放射線治療は日常臨床においてよく用いられている。だが、その放射線治療に対して抗アンドロゲン療法の併用が局所制御や生命予後に寄与するかどうかはこれまでは不明であった。
方法
1998年から2003年にかけて、前立腺全摘除術+リンパ節郭清術を受け、T2-T3N0M0の症例で術後8週以降でPSAレベルが0.2-4.0ng/mlであった760例が二重盲検プラセボ対照試験に割り付け、解析された。治療群・対照群いずれも前立腺床に64.8Gy/36回の放射線療法が行われ、治療群は150mg/日のビカルタミドを24ヶ月間投与、対照群はプラセボ錠剤が投与された。主要評価項目は全生存率、副次評価項目として原病生存率、転移発生率、局所制御率、等が評価された。登録時期当時のPSA測定下限値は0.2-0.5ng/mlであったが、治療前PSA最低値より0.3ng/ml以上増加した場合がサルベージ治療後の生化学的再発と定義された。
結果
両群計760例が解析に含まれ、各群258例が予定治療を完遂した。治療(ビカルタミド)群の死亡数は108例、そのうち原病死は21例、対照(プラセボ)群の死亡数は131例、そのうち原病死は46例であった。生存者の追跡期間中央値は13年であり、12年全生存率は治療群 76.3%に対し,対照群 71.3%で有意に治療群の方が生存率が高かった(ハザード比 0.77,95%信頼区間 0.59~0.99,P=0.04).特に再発時PSA>1.5ng/mlの群でより有意に治療群の生存率が良好であった(ハザード比:0.45、P=0.007)。原病死亡率(ハザード比:0.49、P<0.001)、遠隔転移発生率(ハザード比:0.63、P=0.005)においても治療群が有意に良好という結果が示された。薬剤による有害事象として女性化乳房が治療群で69.7%であったのに対し対照群では10.9%と有意な差が見られた(P<0.0001)。放射線療法に関連する晩期有害事象発生率は両群で有意な差は見られなかった。
結論
前立腺癌全摘手術後の生化学的再発において、サルベージ放射線療法単独に対して24ヶ月の抗アンドロゲン剤投与を併用した方が、有意に生存予後、原病死亡率、遠隔転移発生率を改善する(Funded by NCI, AstraZeneca; RTOG9601, NCT00002874)。
コメント
前立腺癌手術後のPSA再発に対する局所放射線治療はよく行われる治療であるが、それに抗アンドロゲン剤を併用することの意義に関するランダム化比較試験の報告。これに対していくつかの慎重論も指摘されている。第一に「試験開始時は約20年前で検査診断精度が現状と大きく異なり、リスク分類や治療戦略も変遷しているため、結果をこのまま現状に当てはめるのは難しいのではないか」。これに対しては、前立腺癌は周知の通り3年や5年では結論を出せない疾患であるため何時の時代においても背景が現状と合わなくなるのは致し方ないと考えられる。よくデザインされた比較試験の結果は客観的に今後に反映させていく必要があるのではないかと考えられる。第二には「全ての症例について当てはまるわけではない。実際に薬剤を投与して恩恵がある群を選別して用いるべきではないか」という意見が挙がっている。これに対しては、本文中で登録時PSAに応じて<0.7ng/ml、0.7-15ng/ml.、>1.5ng/mlの3群に分けて解析されており、0.7-15ng/ml、>1.5ng/mlの2群で治療群が有意に良いが、<0.7ng/mlの群では有意差が無く明らかなメリットが無いことが示されている。但し、Gleason scoreでは悪性度に相関しない結果も出ている。このため、どの条件で選別するかはより詳細な解析が必要と考えられる。もちろん「24ヶ月という期間」「LHRH-agonist」の議論も尽きないが、現時点で言えることは「ある二重盲検試験において前立腺全摘術後PSA再発症例に対するサルベージ放射線療法に抗アンドロゲン剤を併用することで生存予後を改善できる」ことが分かり、今後の治療に影響を与える可能性がある。
PMID: 28146658
エビデンスレベル 1b
(神奈川県立がんセンター 野宮 琢磨)