No. 241
Population-Based観察研究とランダム化比較試験の違い
Comparison of Population-Based Observational Studies With Randomized Trials in Oncology.
Soni PD, et al.
J Clin Oncol. 2019 May 10;37(14):1209-1216.
doi: 10.1200/JCO.18.01074.
背景
- ランダム化比較試験はがん治療の有効性を比較するためのゴールドスタンダードであるが、費用、期間、症例選択の点から代替の研究手法も行われる。
- Population-based観察研究が近年活用され、臨床判断やガイドライン作成にも影響を与えている。
- がん治療に関するPopulation-based観察研究の結果をランダム化比較試験の結果と比較し、両者が合致するか否かを調べた。
方法
- SEER、SEER-Medicare、NCDBを用いて2000/01-2016/10に発表された観察研究(全生存または疾患特異的生存をend pointとする研究)を抽出した。
- それぞれの観察研究に対してMEDLINEから対応するランダム化比較試験を検索した(複数のランダム化比較試験が見つかった場合、年齢、疾患stage、治療の詳細から最も適合した登録基準を設けている研究を選択)。
- 観察研究における生存のHazard ratio(HR)がランダム化比較試験から見積もられたHRの95%信頼区間に入るか否かを調査した。
結果
- 3657件の観察研究を調査した。
- 350件の観察研究とそれらに対応する121件のランダム化比較試験が見つかった。
- 観察研究の68%、ランダム化比較試験の31%で治療による生存の統計学的有意差を報告していた。
- 観察研究とランダム化比較試験のペアで結果が合致したのは40%だった(偶然の合致の域を超えない)。合致しなかったペアの91%では一方の研究で有意差がつき、他方で有意差がつかなかった。9%では異なる方向に有意差がついていた。
- 観察研究のHRがランダム化比較試験におけるHRの95%信頼区間に入っていたペアは62%しかなかった。
考察
- 登録データの不確かさや統計手法や症例背景の違いや症例数といった不一致の理由を検討したが、単一の要因は指摘できなかった。
- ランダム化比較試験がバイアスを減らすとしつつも、除去しきれないバイアスが残存して真実を反映していない可能性もある。とはいえ、観察研究の結果は厳密に施行されたランダム化比較試験で追認されるべきであり、そうでなければ観察研究の信頼性を疑うべきである。
- 観察研究の出版バイアスも問題となる。
結論
Population-based観察研究の結果とランダム化比較試験の結果との合致は、偶然の域を超えなかった。
コメント
近年のがん治療の進歩は著しく、すべての介入の効果をランダム化比較試験で検証することは困難になってきている(大規模な症例数を何年もかけてフォローしても、結論が出る頃にはまた新しい治療法が出ている)。その点、Population-based観察研究は簡便であるし、より実臨床を反映しているというメリットもある。
本論文ではPopulation-based観察研究の結果が必ずしもランダム化比較試験と合致しないことを指摘しており、興味深い。Population-based観察研究とランダム化比較試験はどちらにも長所短所があり、両者を総合して臨床判断に活かすことが重要だと感じる。
日本においてはPopulation-based観察研究が行えるような枠組み作り(がん登録)から始めなくてはならないだろう。
PMID: 30897037
(東京大学医学部 竹中亮介)