No.78
リンパ節転移陽性乳癌に対してPaclitaxelを含む化学療法を併用する場合、照射肺容積の縮小と照射線量の抑制が必要か?
Is a Reduction in Radiation Lung Volume and Dose Necessary with Paclitaxel Chemo therapy for Node-Positive Breast Cancer?
Taghian AG, Assaad SI, Niemierko A, Floyd SR, Powell SN.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 62 (2):386-391, 2005
目的
リンパ節転移陽性乳癌患者において、照射肺容積、照射線量、paclitaxel を含む化学療法が、放射線肺炎の発生に与える影響を調べ定量化した。
対象と方法
41人の乳癌患者において、paclitaxel を含む化学療法と放射線療法を行い、放射線肺炎(注釈1)の発生率を調べた。中心肺距離(注釈2)を用いて、これらの患者の照射肺容積を調べた。 Paclitaxel併用/非併用の化学療法を受けた患者における照射肺容積と放射線肺炎発生率から、放射線に対する肺の耐容性を検討した。 Paclitaxelで治療して放射線肺炎が発生した患者と発生しなかった患者を比較するケースコントロールスタディにより、放射線肺炎発生のリスクファクターを評価した。さらにpaclitaxel併用化学療法と放射線治療で治療した患者(n=41)とpaclitaxel非併用化学療法と放射線治療で治療した患者(n=192)を比較するケースコントロールスタディも行った。
結果
paclitaxel治療群の放射線肺炎発生率は15.4%、paclitaxelを含まない化学療法群では0.9%であった。数学モデルを用いた検討により、paclitaxel で治療した患者の肺耐容性は約24%減少した。Paclitaxelで治療して放射線肺炎が発生した患者と発生しなかった患者を比較するケースコントロールスタディでは、照射線量、分割線量、中心肺距離、照射肺容積率に有意差はみられなかった。Paclitaxel併用化学療法と放射線療法で治療した患者とpaclitaxel非併用化学療法と放射線療法で治療した患者を比較するケースコントロールスタディでは、paclitaxel 治療群において、鎖骨上窩照射野の使用頻度が高いことと照射線量が少ないことに関して有意差がみられた。これらは、paclitaxel 併用が放射線肺炎発生増加の要因であることを示唆している。
結論
リンパ節転移陽性乳癌患者において、paclitaxel を含んだ化学療法と放射線療法の併用は、放射線肺炎の発生増加と関連している。肺耐容性の計算では、paclitaxel治療群において照射肺容積を 24%減らせれば、放射線肺炎発生率を1%まで減らすことができる。Paclitaxelを含む化学療法と放射線療法を併用する今後の臨床試験では、リンパ節転移陽性乳癌患者に対する標準治療をめざした安全なガイドラインの作成のため、放射線肺炎発生率とその程度を慎重に評価し、照射肺容積を正確に評価しておくことが肝要である。
(注釈1)放射線肺炎は、RTOG Acute Morbidity Scoring Criteria stage 2-3のものとして評価[Taghian AG, et al. J Natl Cancer Inst. 93:1806-1811, 2001]
(注釈2)中心肺距離(the central lung distance; CLD)は、tangential fieldのDRRにおいて照射野中心レベルでの胸壁から肺最深部までの長さとして定義[Das IJ, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 42:11-19, 1998]
コメント
この論文の問題点は、paclitaxel 治療群において鎖骨上窩照射野の使用頻度が高くなっていること、照射肺容積の計算は直接CTからではなく中心肺距離を用いて推測していることであろう。しかし、リンパ節転移陽性乳癌患者に対するアジュバント化学療法として、doxorubicin、cyclophosphamideにpaclitaxelを併用することにより無病生存率、全生存率ともに増加することが示されて以降、身近な日常臨床でもpaclitaxel併用化学療法の使用頻度が増えつつある。この論文ではpaclitaxel併用により放射線肺炎が増加する可能性を示唆しており、paclitaxel併用時には照射野に含まれる肺容積をなるべく少なくするように、より慎重に照射計画すべきである。
(黒田 昌宏)