No.139
MRIはCTを用いた上咽頭癌のAJCC病期分類にどのような影響を及ぼすか?
How does magnetic resonance imaging influence staging according to AJCC staging system for nasopharyngeal carcinoma compared with computed tomography?
Xin-Biao Liao, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys, 72(5):1368-1377, 2008
目的
AJCCによる第6版の上咽頭癌の病期分類は、予後との関連性の点で以前の病期分類と比較して信頼性が高いとされている。
これまでの病期分類はCTで行われることが多かったが、MRIは組織コントラストの高さ、撮像方向の多彩さ、骨の影響を受けないなど、CTと比較してより正確な評価が可能である。上咽頭癌の病期分類で、CT・MRI間でどのような評価の差異が生じるか検討する。
方法
2003年1月から2004年12月までSun Yat-sen大学病院でMRIおよびCTで診断された上咽頭癌420症例の上咽頭癌の病期分類を遡及的に検討した。症例の内訳は男性304名、女性 116名、年齢13-76才(中央値45才)、組織学的には99.4%がWHO分類に Type ⅡあるいはⅢと診断されていた。
全ての症例で CT、MRIでの評価を行い、検査時期の違いは2週間以内とし、いずれも造影して検査を行った。MRIでは軸位断に加え矢状断、冠状断像も撮影して判定を行った。
判定は2名の熟練した放射線診断医が行い、CTおよびMRIでの主腫瘤の進展範囲の判定の相違、リンパ節転移の評価 (RTOGの定義に従う) の相違、予後に関連するPTE (parapharyngeal tumor extension) の有無をMRIで再評価し、臨床病期を含む種々の因子がどのように変化するかを検討した。
結果
局所での腫瘍の進展に関しては、中咽頭 (CT 25% vs. MRI 14.5%)、椎体前筋(CT 18.4% vs. MRI 36%)、傍咽頭間隙(CT 82.6% vs. MRI 68.8%)、頭蓋底( CT 31% vs. MRI 52.6%), 蝶形骨洞(CT 13.6% vs. MRI 16.7%)、篩骨洞(CT 7.1% vs. MRI 3.3%)、頭蓋内領域への進展(CT 4.8% vs. MRI 16%)、後咽頭リンパ節転移の検出(CT 52.1% vs. MRI 69%) でそれぞれ判定に有意差 (p<0.05) が認められた。
PTEに関しては有意に進行したT因子、N因子、臨床病期および後咽頭リンパ節陽性との相関が認められた。CTでPTE陽性と判定され、MRIでは陰性と判定された症例群が347例中77例 (22.2%) に認められ、有意に予後良好な群へと再評価されている。MRIでのみ頭蓋底への進展ありと判定された症例は84例あり、そのうち43例 (51.2%) は微小な骨進展が評価されていた。
MRIによるT因子の判定の変化は209例 (49.8%) に認められた。そのうちupstagingが134例 (32%) に認められ、その理由はMRIで判定された頭蓋底進展、咽頭底筋膜の破綻および頭蓋内進展によるものであった。downstagingは75例 (17.8%) に認められ、MRIで咽頭底筋膜の破綻が否定された症例群が主であった。T因子が変化した症例のうち、大部分 (91.9%) がMRIによるPTE、頭蓋底浸潤、頭蓋内進展の再評価によるものであった。リンパ節転移の判定の変化は10.7%と少なかった。MRIによる判定で生じた臨床病期の変化38.6%のうち、upstagingは26.9%、downstagingは11.7%であった。
考察
局所判定のうちPTEに関し、CTはMRIと比較してより過大評価を行いがちであったが、これは腫瘤と後咽頭リンパ節を区別できないことや、腫瘍による圧排と浸潤を区別できなかったためであると考えられた。MRIは咽頭底筋膜や椎前筋への進展をより明敏明確に検出することが可能であった。また矢状断や冠状断での撮像が可能であることから頭蓋骨底への進展をより正確に判定することができる。MRIにより早期の腫瘍進展の判定特異度が上昇し、また深部組織への進展の判定感度が上昇すると考えられた。
MRIはより正確に後咽頭リンパ節転移を判定できることができたが、腫瘍および周囲組織とリンパ節を区別が可能であったためだと考えられた。
後咽頭リンパ節転移以外の転移リンパ節の検出能力に関しては CTとMRIでは大きな差を認めなかった。臨床病期に関しては、2.9%がⅠ-ⅡA期からⅡB-Ⅲ期へupstagingされ、ⅡB期以上で併用療法などの治療方針の変更が行われるとすれば、これらの群では本来必要であった治療が受けられたこととなる。6.4%がⅡB-Ⅲ期からⅠ-ⅡA期へと downstagingされ、同様にこれらの群では不必要な治療を受けずに済んだこととなる。
結論
今回の研究は上咽頭癌の病期分類に関し、MRIとCTの判定を比較した最も大規模研究である。T因子は約50%、臨床因子は約40%変更された。治療方針やターゲット範囲がMRIを用いることで変更されることとなり、患者の利益につながると考えられた。
コメント:上咽頭癌の病期診断の際には、CTとMRIの両方を用いて評価することが多いのですが、CTで過大評価しがちな部位などを意識して読影することが重要だと感じました。また、PTEなど予後に関連する因子についてはより注意を払う必要性を改めて認識しました。
常に解剖学を意識した読影を行うことが、治療計画の際により正確なcontouringにつながり、確実な局所制御につながるということなのだと思います。MRIがCTよりも正しい判定を行っていると仮定した上での評価であるという点で断定的な印象を受けました。
(東京女子医大:茂木 厚)