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公益社団法人日本放射線腫瘍学会

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No.118
手術不能非小細胞肺がんに対するInvolved-Field放射線治療

nvolved-Field Radiation Therapy for Inoperable Non-Small-Cell Lung Cancer

Rosenzweig KE, Sura S, Jackson A, et al.
J Clin Oncol. 25(35):5557-5561, 2007

目的

非小細胞肺がん(NSCLC)の根治的放射線治療において、線量増加が局所制御を改善するが毒性も増強することが示されている。我々は、肉眼的腫瘍部へより高線量を投与しつつ毒性を軽減するためinvolved-field radiotherapy(IFRT)を導入した。この解析は、IFRTにおける、転移のないリンパ節領域再発を検討したものである。

対象および方法

1991年から2005年の間に、Memorial Sloan-Kettering Cancer Centerにおいて3次元原体照射による治療を受けたNSCLC患者524例を検討した。初診時に生検または画像診断基準によって転移ありと判断されたリンパ節領域のみを臨床標的体積(Clinical Target Volume: CTV)に含めた。Elective nodal failure(ENF)は、局所再発がない場合でかつ初診時に転移のなかったリンパ節からの再発と定義した。

結果

生存者の観察期間中央値は41ヶ月で、32例(6.1%)のENFが認められた。EN領域および原発巣の2年制御率はそれぞれ92.4%および51%であった。局所制御が得られた患者における2年EN制御率は91%であり、ENFまでの期間の中央値は6ヶ月であった(0-56ヶ月)。多くの患者が同時に複数のリンパ節領域に再発していた。

結論

IFRTを用いてもENFはさほど多くはなく、IFRTは毒性を最小限にしつつ線量増加を可能とする許容可能な治療方法である。

コメント

近年、手術不能非小細胞肺がんに対するIFRTが注目されており、同様の報告が続いている。線量増加を図る一方で毒性を軽減するために縦隔リンパ節領域への予防照射を省略する戦略であり、524例という多数例の解析は貴重であるが、示されたデータの解釈には以下の注意が必要である。

1) 放射線治療単独42%、化学療法と逐次併用41%、同時併用15%:標準治療の変遷を考えると妥当であるが、治療法による結果への影響が無視できない可能性がある。

2) ENFの定義として、局所再発がない場合に限っているが、局所制御は化学療法併用の有無により影響を受け、局所制御不良な治療法ではENFがマスクされる可能性がある。実際に放射線治療単独例のENFが化学療法併用例のENFよりも低い数値が出されている。
また、遠隔転移後のENFもイベントととっていることは評価できるが、遠隔転移後には必ずしも縦隔リンパ節の評価を行っておらず、ENFを過小評価している可能性がある。

3) stagingにおけるPETの有無によるENFの差がなかったとしているが、PETの有無自体によるstage migration、EN領域および治療法の変更など、影響を及ぼす因子が数多くあり、この比較自体に意味がない。

4) フォローアップが不十分であるため、ENFを過小評価している。本文の図1を参照して欲しい。
全生存曲線ですら、1年未満の時点から曲線が見えないほど多数の打ち切り例が存在している。一般に打ち切りが多ければ多いほど見かけの結果は良くなると言われており、当然局所制御、EN制御もしかりである。
現時点ではIFRTによる線量増加により治療成績が改善するか否かはランダム化試験による検証を待つ必要がある。また、IFRTは線量増加を前提として導入されたものであり、線量増加を行わない場合のIFRT導入は、ENFを増加させるリスクがあることから慎重であるべきだと思われる。


(石倉 聡)

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