JASTRO

公益社団法人日本放射線腫瘍学会

JASTRO Japanese Society for Radiation Oncology

ホーム > JASTRO 日本放射線腫瘍学会(医療関係者向け) > 学会誌・刊行物 > Journal Club > IMRTの記載に関する ASTRO の推奨

No.153
IMRTの記載に関する ASTRO の推奨

American Society of Radiation Oncology Recommendations for Documenting Intensity-Modulated Radiation Therapy Treatments.

IMRT Documentation Working Group
Int J Radiat Oncol Biol Phys 74:1311-1318, 2009

I.現時点における臨床現場での勧告

そのものが電子医療記録インフラからのサポートを受けることが多いため、IMRTにおける記録は紙媒体から電子媒体に発展してきている。しかし現在は紙媒体がこれらのデータを共有するために最も広く用いられている点を考慮して、本勧告は線量分布などの情報は多くの場合紙媒体に記録されるべきであるという現実を反映して作られた。
 警告:最近の報告で、Dasらは803例のIMRTを後ろ向きに解析した。
「46%の症例で最大線量が処方線量の110%以上であり、一方で63%の症例において、処方線量の90%以下しか照射されない部分を有している(PTVを指していると思われる:訳者注)。処方線量と投与線量の違いは施設間でも存在し、IMRTの臨床成績を(施設間で)比較する場合の有効性に疑問を投げかけている。IMRTの中心(isocenter)線量はある一点における線量に過ぎず、標的容積を包含する特定の等線量曲線によって表される処方線量を反映しない。このstudy はIMRTを用いた有意義な臨床試験のために線量指示や治療計画の記述方法に関する全国あるいは全世界的なガイドラインの必要性を訴えるものである。」
結果的に、処方線量と投与線量の差は10%にも及ぶことから、他の施設で行われた治療を検討する場合には注意が払われるべきである。

A.線量体積指示(Dose and Volume Specification)における推奨

以下のリストはIMRT Collaborative Working Groupによる、臨床成績との関連付けのために必要なIMRTにおける標的容積や線量指示に関する推奨である。

1.医師はICRU report 50および62に従って、GTV、CTV、PTV、ITV、OAR、PRVを特定する。

2.PTVは治療間(interfraction)あるいは治療内(intrafraction)のセットアップ誤差や臓器の動きを含めたCTVを適切にカバーする必要がある(少なくともカバーするよう努力する)。従来行われているCTV周囲に均一なmarginを設定する方法はIMRTにおいて最早不充分である。

3.最低限、線量と臨床成績を結びつけるために、以下の情報を含むべきである。

a.処方線量:指示点あるいは指示容積を分割回数と共に記載する。
b.D95:(DVH上で)PTV(およびCTV)の容積の95%を包含する線量(Gy)
c.D100:PTV(およびCTV)の容積の100%を包含する線量(Gy)(=最低線量)
d.V100:処方線量の100%が照射される容積(%)
e.PTV(およびCTV)における平均線量と最大線量
f.すべてのOARについて最大・最小・平均線量とその(平均)線量が投与される容積など、関連するDVHデータ

B.IMRTの記述に関する推奨(紙媒体かデジタル記録)

以下のリストはIMRTの記述に関するIMRT Documentation Workgroupによる推奨である。
医師による治療サマリーに加え、Workgroupでは、(1)IMRT治療計画指示(2)治療目標サマリー(3)画像ガイドサマリー(4)動きの管理(motion management)サマリーを用いてinverse planや画像ガイドによる治療過程の詳細を記録することを勧める。

1.IMRT治療計画指示

複雑な3次元治療計画を扱う施設では、3次元治療計画作成のために必要な入力パラメータや情報を明快に記載するための部位別(site specific)治療計画指示を開発すべきである。治療計画指示に含まれるべき項目は:

a. 処方 - 体の部位/標的、総線量、分割回数、必要ならプロトコルID
b. 標的定義 - GTV/CTVを決定するために用いた画像の種類、PTVを定義するためのmarginの記載
c. OAR - 名称には一貫性を持たせる(少なくとも施設内では統一すべき:訳者注)
d. 治療計画パラメータ - エネルギー、不均質補正、治療装置に固有のinverse planパラメータ(例えばヘリカル・トモセラピーにおけるスリット幅や変調要素;Direct Aperture Optimization/Direct Machine Parameter Optimization公式計算のための照射セグメントの最大数や各照射セグメントにおけるMU値など)
e. 治療計画目標 - 許容できる標的線量の均一性の偏差、最低限の線量容積制限(dose volume constraint)、OARの線量容積限界などの治療計画目標が与えられるべきである。
f. 医師のサインと記入日付
g. 治療計画作成者(線量測定士/物理士)のサインと記入日付ミシガン大学で開発された指示書の例をFig. 1に示す。

2.IMRT治療目標サマリー

各施設は上述したIMRT治療計画指示を補う意味で部位別の治療目標サマリーを作製することが望ましい。フロリダ大学で開発されたサマリーのスプレッドシートをFig. 2に示す。

3.画像ガイドサマリー

各施設はIMRTにおける日々のセットアップ誤差を検出するための画像ガイドシステム使用に関する記述方法を開発することを勧める。これらの誤差(の測定)はより洗練された治療計画に向けた臓器別の治療margin設定に役に立つであろう。このサマリーは測定に用いた機器(X線、CT、US、 Calypso(tm)、光学的システム、X線不透過マーカーなど)とその使用頻度を含むべきである。St. Agnesがんセンターで開発されたサマリーをFig. 3に示す。

4.動きの管理(motion management)サマリー

各施設においては肺または腹部の治療の際に呼吸性移動によるずれを補正/修正する動きの管理(motion management)システムの使用に関する記述方法を開発すべきである。このサマリーには以下の情報が含まれる:

a. 治療部位、左右の区別を含む
b. 治療方法(呼吸などの同期)gateのあり・なし(gateを同期と訳してよいか不明:訳者注)
c. 呼吸管理方法と使用機器
i. 腹部圧迫装置やActive Breathing Coordinator(tm) (ABC)のような外部機器により監視される呼吸調節を用いた、gate無しの治療
ii. 自由呼吸下でRPM(tm)のような外部gateモニターを用いたgateありの治療
d. 動きの管理システムを用いることによる(予想される)位置決めの不正確さ
e. ITVおよびPTVを定義するために用いた方法
i. 複数の呼吸相にわたって撮像される4次元CT(4DCT)画像
ii. 低速スキャン(slow scan)による画像(CTあるいはPET)
iii. ITV からPTVを作製する際のmargin

5.医師の治療サマリー、以下を網羅する

a. 疾患の部位およびステージ
b. 処方線量および分割回数
c. 特別な固定方法、動きの管理、X線不透過マーカーなどの使用や他のIMRT治療過程に関連する適切な情報

6.下記を含む日々の診療録のコピー

a. 既に行われた治療や治療の中断について
b. セットアップ写真
c. 以下を含む治療装置の情報
i. 製造会社/モデル名
ii. ビーム・エネルギー
iii. MLCのタイプ/リーフの分解度
d. 固定装置/治療補助具(ボーラス・直腸バルーン)
e. その他(膀胱の充満時、排尿後、手を頭の上などの指示)

7.治療計画のプリントアウト

a. 治療計画装置およびそのバージョン
b. 治療計画作成日
c. 処方
d. 標的と OARの(cumulative)DVH
e. 軸面・矢状断面・冠状断面CT画像の等線量曲線図
i. 軸面像は照射野の上下縁からそれぞれ1cmを含む範囲を、1cm(あるいはそれ以下)間隔で
ii. 矢状断・冠状断はPTV中心および脊髄のような線量制約臓器の中心を通る面で
f. 標的とOARの最小および最高線量を含む線量容量データ(注意:最低および最高線量は臨床的には意味を持たない小さなボクセルのレベルに生じることもあることから、医師は代わりに1%の容積が受ける線量(D1)を最低線量、99%の容積が受ける線量(D99)を最高線量とすることが勧められる)
g. オプション:ワイヤー・フレームか3D表面表示による線量制約臓器の描出と、(各ビームにおける)照射セグメントの最大領域の輪郭が表示されたDRR画像(注意:IMRT は照射野辺縁で線量勾配が増加(edgeがはっきりする)ように用いられるため、物理学的なmarginは縮小される傾向にある。従って(通常の)非変調照射と比べてIMRTにおけるDRRでは照射野辺縁が標的容積に非常に近く見えることがあり、この点に留意して検討するように心がけなければならない)

8.記録保持

少なくとも5年間は(紙および電子)記録を保存することが望ましい。電子記録はDICOM-RT、JPEGやPDFなどの標準的フォーマットで記録されるべきである。

コメント

IMRTが普及してきたが、治療結果や有害事象の分析のためには施設内ばかりでなく、他施設間の比較が必要となるが、この際に10%前後の投与線量の違いは正確な分析を不可能とする最大の要因となる。このため色々な勧告が出されてきたが、この勧告もその一つである。記録として把握し残す事項について記載されているが、こうした記録は学会として早急に紙媒体でも統一したものを作成し、各施設で使用することが望ましい。こうした統一的な記載様式を作成し今後のIMRT治療の分析を正確に効率的に行うために、学会やIMRTに関係した研究班の指導性を期待したい。


(西尾 正道)

top