No.177
放射線治療のプロトコール逸脱は生存期間を短縮する―膵癌術後補助化学療法の第III相試験(RTOG 9704)の報告
Failure to adhere to protocol specified radiation therapy guidelines was associated with decreased survival in RTOG 9704 - A Phase III trial of adjuvant chemotherapy and chemoradiotherapy for patients with resected adenocarcinoma of the pancreas
Abrams RA, Winter KA, Regine WF, et al.
Int J Radiat Oncol Biol Phys 2012;82(2): 809-816
目的
RTOG 9704では，切除後膵癌患者における5-FU併用化学放射線療法(5-FU/RT)の前後に併用する補助化学療法(5-FUまたはgemcitabine)がランダム割り付けされた．
今回，放射線治療のプロトコール逸脱が生存期間や毒性に影響を与えるかを解析した．
対象と方法
放射線治療の内容はプロトコールに規定されていた．放射線治療品質保証(RTQA)の評価結果(QAスコア)は，プロトコール規定を遵守：per protocol (PP)，逸脱：<PPのいずれかに分類した．評価はプロトコール治療後であるが試験結果の解析以前で各症例の治療経過がわからない状態で行った．
また解析は全症例および占居部位が膵頭部であるサブグループの両者で行った．
結果
416例のQAスコアはPP 216例，<PP 200例であった．全ての占居部位(膵頭部，膵体部／尾部)でみると，生存期間中央値(MS)はPP 1.74年，<PP 1.46年と有意差が認められた(log-rank, p=0.0077)．多変量解析ではQAスコアは生存期間と関連していたが(p=0.014)，化学療法は関連していなかった．膵頭部のサブグループでは，QAスコアおよび化学療法ともに生存期間と関連していた(それぞれp=0.016,p=0.043)．
全ての占居部位でみると，PPは再発リスクが低く(p=0.016)，さらにgemcitabine群でGrade 4/5の非血液毒性が少ない傾向があった(p=0.065)．
結論
本試験は，膵癌術後補助療法において，放射線治療のプロトコール逸脱が治療成績に与える影響を評価した最初の多施設第III相試験である．プロトコール逸脱は生存期間を短縮させ，gemcitabine群では非血液毒性を増加させる傾向があった．
コメント
本報告はTROG 02.02からの報告(Journal Club No.169)に続き，大規模第III相試験における放射線治療の質と治療成績の関連を解析した論文である．
本試験では，全ての占居部位でみると，MSはgemcitabine 1.55年 vs. 5-FU 1.43年(p=0.51)で有意差が認められなかったのに対し，PP 1.74年 vs. <PP 1.46年(p=0.0077)では明らかな有意差が認められ，多変量解析においてもQAスコアは明らかな関連因子として残るなど，化学療法の効果の差よりも放射線治療の質の差の方が治療成績へ与えるインパクトが大きかった．また，膵頭部のサブグループにおけるMSはgemcitabine 1.71年 vs. 5-FU 1.43年(p=0.12)と有意差が認められなかったが，多変量解析で生存に関連する因子として残ったリンパ節転移とQAスコアとで調整するとp=0.03と有意差が認められた．このことは放射線治療規定の遵守は，治療法を正しく評価する上で極めて重要であることを示している．
PPが約半数にとどまったという結果は，本試験が実施された1990年代後半から2000年代初めにかけて珍しいものではないが，その後RTQAの体制整備とQAスコアの改善が図られてきた．本試験に続くRTOG 0848試験では放射線治療開始前にRTQAレビューと逸脱の修正を行うことまで要求している．わが国ではJCOGが2002年にRTQAを含む臨床試験を開始し，QAスコアの改善と治療成績向上への寄与も示唆されている．JCOG放射線治療グループでは定位放射線治療および強度変調放射線治療のRTQAも実施されている．臨床試験そのものの質の担保のみならず，その波及効果により質の高い安全な先進的放射線治療の普及にも貢献しており，今後もRTQAの果たす役割は大きいと思われる．
Evidence level I
PMID: 21277694
(名古屋市立大学 石倉 聡／大船中央病院 佐貫 直子)