No.126
手術不能III期非小細胞肺癌に対する同時併用化学放射線療法とドセタキセルによる地固め療法後のゲフィチニブ維持療法とプラセボ投与の第III相試験
Phase III trial of maintenance gefitinib or placebo after concurrent chemoradiotherapy and docetaxel consolidation in inoperable stage III non-small-cell lung cancer: SWOG S0023
Kelly K, Chansky K, Gaspar LE, et al.
J Clin Oncol 26:2450-2456, 2008
背景
手術不能III期非小細胞肺癌に対する標準治療は白金製剤+他の一剤同時併用化学放射線療法であるが治療成績はすでに頭打ちである。ゲフィチニブ(イレッサ)は、first-lineとして標準治療と同時併用しても生存期間を延長する効果は認められなかった(INTACT 1, 2)。では維持療法では?
方法
手術不能III期非小細胞肺癌に対する標準的化学放射線療法(+ドセタキセルによる地固め療法)後のゲフィチニブ維持療法の有用性をプラセボとの比較で評価する。
適格症例
手術不能(論文では“inoperable”, プロトコールでは“unresectable”)IIIA(N2)/IIIB非小細胞肺癌新鮮例。SWOGの標準治療であるシスプラチン (50mg/m2) day 1,8,29,36とエトポシド (50mg/m2) day 1-5, 29-33と胸部照射(45Gy/25回とブースト16Gy/8回で総線量61Gy)の同時併用のあと、増悪症例を除外してドセタキセル(75 mg/m2, 3週間ごと)投与を3サイクル施行。その後、増悪例を再度除外。
介入
ゲフィチニブ500mgあるいはプラセボの1日1回投与を5年間。ゲフィチニブは、500mgが250mgを効果で上回らず毒性が高いことが 2003年に発表され、以後250mgに減量。
エンドポイント
全生存率と無増悪生存率
結果
2001年に開始。2005年にISELC(Iressa Survival Evaluation in Lung Cancer, Thatcher N, et al. Lancet 366:1527,2005)によりイレッサ投与がbest supportive careを生存率で上回らないことが報告されたことを受け、予定外の中間解析が行われ、登録は終了(集積/予定=620/840, 74%)。同時併用化学放射線療法の適格例が571例、地固め療法に進んだものが429例、維持療法に進みランダム化の適格例となったものが243例。ゲフィチニブ投与群118例、プラセボ群125例。
経過観察期間の中央値27ヶ月で生存期間の中央値はゲフィチニブ投与群で23ヶ月、プラセボ群で35ヶ月(HR=0.63, p=0.013)、1および2年生存率はゲフィチニブ投与群で73%および46%、プラセボ群で81%および59%となり、ゲフィチニブ投与群は全生存率において有意にプラセボ群を下回った。ゲフィチニブ投与群でG3の下痢、発疹が7%に認められたが、これらは500mg投与群のみであった。同時併用化学放射線療法、ドセタキセルによる地固め療法、ゲフィチニブ投与群での治療関連死はそれぞれ2%, 4%, 2%。
結論
手術不能III期非小細胞肺癌に対する標準的化学放射線療法(+ドセタキセルによる地固め療法)後のゲフィチニブ維持療法はプラセボ群と比較して肺癌の増悪例が多く、有意に生存率を低下させる。
コメント
今さらですが、イレッサ(ゲフィチニブ)は選択的にEGFR-TK(上皮細胞増殖因子受容体チロシンキナーゼ)を抑制し、癌細胞増殖に関与する細胞情報伝達を抑制する分子標的薬剤です。他の薬剤で効果が認められない肺癌患者に対する奏効例のデータをもとに承認された、本来second- line, third-lineの治療薬です。承認に至る過程そして承認後もイレッサ投与による非小細胞肺癌の特定の患者集団における生存期間の延長はいまだにきちんと証明されていません。本試験においては、イレッサ投与により有意に生存率が低下しました。これは毒性が増したためではなく、イレッサ投与群に肺癌死がより多かったためです。喫煙、人種あるいは癌そのもののEGFRの発現など解析外の因子に群間にばらつきがあった可能性もありますが、生存率の低下の合理的な説明とはなりません。
(宇野 隆)