No.131
III期非小細胞肺癌において術前治療として化学療法に加え化学放射線療法を行う意義:ランダム化比較試験の結果
Effect of preoperative chemoradiation in addition to preoperative chemotherapy: a randomized trial in stage III non-small-cell lung cancer
Thomas T, Rube C, Hoffknecht P, et al.
Lancet Oncology 9:636-648, 2008
背景と目的
術前化学療法は切除可能III期非小細胞癌患者の生存率を改善するとされている。III期非小細胞肺癌症例に対して、術前治療として、化学療法に加え化学放射線療法を行った場合の切除(切除率・根治度)、組織学的効果および生存率に与える影響を評価。
方法
実施組織:German Lung Cancer Cooperative Group (GLCCG)、26施設
試験期間:1995年10月から2003年7月
試験デザイン:ランダム化比較試験
試験対象:IIIA―IIIB期非小細胞肺癌(リンパ節は治療前に縦隔鏡などにより評価)
*試験群:化学療法(CDDP+VP-16)3サイクル+化学放射線療法(CBDCA+VDS, RT 45Gy, 2x1.5Gy/day)→手術
(断端陽性、試験開胸、手術非適応の場合:RT 24Gy, 2x1.5Gy/day追加治療)
*対照群:化学療法(CDDP+VP-16)3サイクル→手術+断端陰性の場合:術後放射線治療54Gy,1.8Gy/day
(断端陽性、試験開胸、手術非適応の場合:RT68.4Gy,1.8Gy/day)
エンドポイント:primary:無再発生存期間
secondary:粗生存率、手術施行割合、手術症例における断端陰性率、完全切除率、組織学的効果、縦隔リンパ節のダウンステージ率
結果
558例が割付、34例除外→524症例が解析対象(試験群:264例、対照群:260例)。
手術施行割合:試験群54%(142/264)、対照群59%(154/260)・・・NS
完全切除例の割合:試験群37%(98/264)、対照群32%(84/260)・・・NS
縦隔リンパ節ダウンステージ:試験群46%(45/98)、対照群29%(24/84)・・・p=0.02
組織学的効果(>90%):試験群60%(59/98)、対照群20%(17/84)・・・p<0.0001
無再発生存 期間(中央値):試験群9.5M、対照群10.0M
率(5年):試験群5年16%、対照群 5年14%・・・NS
肺全摘となった割合:試験群35%(50/142)、対照群35%(54/154)・・NS
その中の手術関連死亡:試験群:14%(7/50)、対照群:6%(3/54)
結論
III期非小細胞肺癌において術前治療として化学療法に更に化学放射線療法を加えるアプローチは、高い組織学的効果を示し、縦隔リンパ節転移のダウンステージにも有効であったが、生存率の改善には寄与しなかった。化学放射線療法後の肺全摘は、合併症による死亡が対照群に比べ多く避けるべきであろう。
コメント
1.今回の試験では、対照群の全例に術後放射線治療(54Gy以上:断端陰性54Gy、それ以外68.4Gy)が施行されており、このことが、生存率に違いが見いだせなかった一因かも知れない。本試験のみによって術前化学放射線療法の意義が否定されたものではないと思われる。
2.加速多分割(1.5Gy x 2回/日)を使用していることも一因かもしれないが、術後合併症、特に肺全摘を行った場合の手術関連死亡率が高かった。導入化学放射線療法後の術後合併症には報告によりバラつきが多いが、治療法を検討する際、術式として肺全摘が必要となる可能性がある症例に対しては、手術を安易に選択すべきではないだろう。
・・・IIIA(N2)症例に対する、EORTC08941(導入化学療法→放射線治療vs.手術),INT0139(導入化学放射線療法→化学放射線療法継続vs.手術)の比較試験の結果を見ても、手術を加える意義は示されておらず、IIIA(N2),IIIB期非小細胞癌に対する標準治療は化学放射線療法と考えて良いと思います。
(塩山 善之)