No.137
根治的放射線治療を行ったIII-IV期頭頸部癌において生存率の改善が観察された
Improved survival in patients with Stage III-IV Head and neck cancer treated with radiotherapy as primary local treatment modality.
KYLE E. RUSTHOVEN, DAVID RABEN, CHANGHU CHEN.
Int J Radiat Oncol Biol Phys. 72(2):343-350, 2008
目的
Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) databaseを用い、初回治療として放射線治療を行った頭頸部扁平上皮癌の生存率・病因生存率の評価を行う。
対象および方法
1973-2004 17 registries(米国の人口の26%に相当)のSEER data baseを用い2005年に解析を行った。データの信頼度は97.5%であった。年代(1988-97 vs. 98-04),亜部位、病期、性、年齢を予後因子として生存率の差を比較した。Veterans Affairs Hospital より提出された喉頭癌に対しての喉頭温存のランダム化試験(VA study 1991)およびEORTC 24891による下咽頭癌の臓器温存のランダム化試験(1996)報告前後での放射線治療のpattern of care studyの検討を行った。
結果
19622例の頭頸部癌患者データより初回に局所療法として放射線治療を行った6759例を用い解析した。
全体のstage III-IV の患者の解析では、98-04 解析で88-97解析より3年粗生存率 は7.6%、3年病因生存率 は6.1%改善していた。年次毎の経過では粗生存率が3%/年、病因生存率は4.1%/年で相対危険率が減少していた。
前半と後半で評価すると前半は生存率/病因生存率で年ごと相対危険率が 3%/4.7% 減少にたいし、後半は4.7%/5.6%の相対危険率減少を認めた。時代比較で亜部位毎の生存率増加が観察されたのは口腔癌、中咽頭癌、下咽頭癌であった。
喉頭癌は病因生存率の改善をみとめたが粗生存率は変化が無かった。上咽頭癌は粗生存率/病因生存率とも差を認めなかった。多変量解析で粗生存率の独立予後因子は亜部位、年齢、時代、病期であった。
Patterns of care studyでは喉頭癌に対し初期治療として放射線を行う割合はVA study以前 では20.1%、以後では38.8%で有意に増加していた。下咽頭癌に関してはVA study以前vs. VAからEORTC24891まで vs. EORTC24891以後で 24.3% vs. 36.2% vs. 46.7% と有意に増加していた。
結論
今回の解析の調査期間のあいだにいくつかのランダム化試験やメタ解析によるEBMが報告されこれらが日常臨床に普及したことによる治療成績の改善を観察していると推測される。
非通常分割照射による局所制御率の改善と生存率の向上、同時化学放射線療法による生存率の改善(局所および遠隔転移抑制)が治療成績の向上に貢献したものと予想される。導入化学療法後に喉頭温存を行うふたつの大きなランダム化試験(VA study, EORTC24891)が公表されてから日常臨床で初回治療として放射線治療を行う機会が有意に増加していた。
治療成績の改善は亜部位による解析では口腔癌、中咽頭癌、下咽頭癌において著明であった。
コメント
米国のがん登録のSEERデータベースを用いたoutcome studyである。本邦ではがん診療連携拠点病院の制定にあたりがん登録が重点項目として定められ本年より院内がん登録がスタートしたところである。しかしながら米国のがん登録制度と比較してハード、ソフト面の整備は大きく遅れておりがん登録への予算も十分配備されているとは到底言えないのが現状である。(予算は他分野の二桁少ない数千万円単位のオーダーのようです。)
データサンプリングや追跡の精度が十分高いがん登録が行われれば臨床試験では困難な大規模で長期の解析が可能になりこの点はがん登録を用いたoutcome studyの利点であるといえる。
しかしながら留意が必要な点として、筆者も論述しているが放射線治療の詳しい分割法、治療期間、化学療法の詳細についてのデータが欠落しているため結論が強引な感が否めないこと、画像診断の進歩などによるstaging migrationによる実質的な治療成績改善以外の因子によるデータの修飾などが内在していることには十分な注意が必要である。
治療法の有効性、安全性を適切に評価し標準治療を探索するためにはランダム化試験の手法を取る必要があることは言うまでもないが、臨床試験は全ての実臨床を反映しているわけではなくがん登録の網羅的なデータから得られるoutcomeと相補的に評価していくことは重要である。実際、亜部位毎の解析において上咽頭がんでは時代的な成績の差が確認されなかった。
上咽頭がんではINT0099によるランダム化試験で化学放射線療法が有意な生存率改善を示し、試験が有効中止になったのは有名であるが(メタ解析でもevidence level Iaが確認されているが)、実臨床では時代的に治療成績の改善が確認できていなかった。
尚、本邦では放射線治療のpatterns of care studyを厚生労働省がん研究助成金事業として光森通英先生が、厚生労働省科学研究費補助金第3次対がん総合戦略事業として手島昭樹先生がJapanese National Cancer Database(JNCDB)の構築としてがん登録の整備に主任研究者としてご尽力されています。
(古平 毅)